血糖上昇時にインスリン分泌されないことに着目
京都大学は7月8日、ナルディライジンというタンパク質が、血糖上昇時のインスリン分泌に不可欠であり、血糖値を一定の範囲に維持するために重要な働きを担っていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学医学部附属病院の西英一郎特定准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は米国糖尿病学会の学術誌「Diabetes」オンライン速報版に7月6日付けで公開された。
画像はリリースより
糖尿病は、血糖調節ホルモンのバランスが崩れていること、特に血糖上昇時にインスリンが充分分泌されないことが原因のひとつとされている。共同研究グループは、ナルディライジンが全身で欠損したマウスを作製。正常なマウスにグルコースを投与すると、インスリンの分泌が亢進するが、ナルディライジン欠損マウスにグルコースを投与しても、インスリンの分泌はほとんど増加しないことがわかった。
次に、膵β細胞だけでナルディライジンが欠損しているマウス(βKOマウス)を作製し、同様にグルコース負荷試験を行ったところ、やはりインスリン分泌の増加は認めず、血糖値は上昇して、糖尿病型表現型を示した。膵β細胞のナルディライジンが、グルコース反応性のインスリン分泌に必須であることがわかったとしている。
高品質な膵β細胞を作製する新規糖尿病治療法に期待
膵島の構造を観察したところ、βKOマウスの膵島ではβ細胞が減少し、α細胞が増加。それに伴い、α細胞が分泌するグルカゴンが増加していた。細胞系譜解析を行ったところ、もともとβ細胞であった細胞の一部が、ナルディライジンを失ったことでα細胞に変化したことが判明。したがって、ナルディライジンは、インスリンの分泌を制御するだけではなく、β細胞に分化した状態を維持するためにも必要であると考えられる。
次に、グルコース反応性のインスリン分泌が障害されるメカニズムを追求するため、膵島の遺伝子発現を調べたところ、βKOマウスではMafAという転写因子の発現量が減少していることが判明。MafAは、インスリン自体やインスリン分泌調節に関わるタンパク質(GLUT2など)の発現量を制御する、膵β細胞に特異的に発現する転写因子。ディッシュで膵β細胞を培養し、ナルディライジンの遺伝子発現を増減させたところ、MafAの発現やインシュリン分泌の量も、それに応じて増減することがわかった。
一方、iPS細胞などの幹細胞から膵β細胞を作製して移植することが、糖尿病の理想的な治療法となる可能性があり、世界中で研究が進められている。今回の研究成果は、ナルディライジンの発現を上昇させることで膵β細胞の機能が改善することを示しており、高品質な膵β細胞の作製につながる可能性もあると、共同研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果