日本人健常者8人の便を次世代シーケンサーで解析
国立がん研究センターは7月7日、腸内細菌叢(腸内フローラ)のメタゲノム解析に欠かせない研究試料である糞便の簡便な保存方法を開発し、大腸内視鏡検査により腸内細菌叢が変動しないことを明らかにする研究結果を発表した。これは、国がんと東京工業大学による共同研究によるもの。研究成果は、国際消化器病関連誌「GUT」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
腸内細菌叢は、次世代シーケンサーによる解析技術の発展により、近年、肥満や糖尿病、炎症性腸疾患、アレルギーなどさまざまな疾患との関連が報告されている。がんにおいても、発がん要因の特定やバイオマーカーとして診断への応用が期待されている。一方で、糞便は1gあたり1000億個の細菌が高密度に存在しており、常温保存では15分以内に雑菌が繁殖し、メタゲノム解析は困難となる。そのため、排便直後にドライアイスや超低温冷蔵庫で冷凍保存するのが標準的だが、より簡便な収集と保存方法が強く求められていた。また、以前より大腸内視鏡検査による腸内細菌叢への影響が懸念されていたとしている。
研究グループは、日本人健常者8人を研究対象とし、国がん中央病院内視鏡科で便を収集、糞便からDNAを抽出し、16SrRNA解析で腸内細菌の菌叢組成の解析を、次世代シーケンサーを用いて行った。
グアニジン・チオシアン酸塩溶液入り採便容器で便を室温保存
凍結保存に代わる保存法として、グアニジン・チオシアン酸塩溶液入り採便容器を用いて便を室温保存する方法で検討を行った。その結果、大腸内視鏡検査の前日(自宅採取)の凍結保存便と室温保存便の相関係数は高く(0.89)、保存法による差異は少ないことが示された。同様に当日の朝、腸管洗浄剤内服後の初回便の室温保存においても高い相関係数を示し、室温保存でも凍結保存法と遜色のない腸内細菌叢の16SrRNA解析が可能であることを実証した。
また、大腸内視鏡検査とその前処置(腸管洗浄剤内服による洗浄)に伴う腸内細菌叢への影響を検討したところ、大腸内視鏡検査の前後で腸内細菌叢の組成の変動はみられないことが明らかになったとしている。
研究成果により、現在、標準的な収集方法とされる凍結保存・輸送が困難な地域住民のメタゲノム解析や、腸内細菌叢の大規模コホート研究の実施が可能となり、腸内細菌叢に関する研究が世界的に加速し、発がんメカニズムや各種疾患との関連の解明につながることが期待されると、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター プレスリリース