小児医療は“治療上の見捨てられた孤児”と称され、小児の効能や効果、用法や用量などが添付文書に記載されていない医療用医薬品は多い。また、適応はあっても大人用の製剤しかなく、小児の服用性に課題がある医療用医薬品も少なくない。採算性や治験の困難さから製薬会社は小児用薬の開発を敬遠しがち。改善に向けた動きは国内外で見られるものの、依然としてこれらの課題が積み残されたままになっているのが現状だ。
摂南大学薬学部はこうした現状に着目し、多発性硬化症治療薬「フィンゴリモド」の発見者、藤多哲朗氏の支援を受け今年4月に学内に発足させた臨床研究センターで取り組むメインテーマを、小児医療の課題解決につながる研究に設定した。その具体的な研究プロジェクトとしてまず、小児用OD錠の開発に必要な基盤技術の確立に取り組むことを決めた。
服薬の意義を理解している大人に比べ小児は、飲み込みにくかったり、嫌な味がしたりすると服薬を拒む傾向が強い。解決策の一つとして、口腔内で速やかに崩壊し、味やにおいをマスクした小児用サイズのOD錠の規格化に取り組む。規格が定まれば各製薬会社は、それに沿って小児用OD錠を開発しやすくなる。
研究は、国立成育医療研究センター、日本薬剤学会の個別化製剤フォーカスグループ、高度なOD錠製剤化技術を持つ製薬会社など、産官学が連携したグループで進める。
グループ内での摂南大学薬学部の主な役割は「製剤の評価系を確立すること」と山下伸二臨床研究センター長(薬剤学教授)は話す。試作したOD錠をin vitroの実験系で評価したり、成人を対象に飲みやすさや味を評価したりし、小児が服薬しやすい錠剤の大きさやマスキング技術を確立したい考えだ。
臨床研究センターは今春、薬学部校舎の一角に設置された。専任者は配置せず、各研究室との兼任でスタッフを構成。山下センター長、奈邉健副センター長(薬効薬理学教授)に加え実務家教員6人のスタッフでスタートを切った。
主体となって研究に取り組むのは実務家教員だ。「多くの薬系大学でもそうだが、これまで実務家教員が研究する場があまりないことが問題だった」と河野武幸薬学部長。「臨床の問題点を基礎研究に落とし込み、その結果をまた臨床に戻すリバーストランスレーショナルリサーチを実務家教員に実施してもらいたいと考え、臨床研究センターを発足させた」と語る。実務家教員の研究推進に伴う臨床教育レベルの向上や、社会人大学院生の研究の場としての活用も期待できるという。
臨床研究センターの設立を記念して今月16日午後1時から、枚方キャンパス内のメディックスホールでキックオフシンポジウムが開かれる。定員は100人。参加費は無料。「日本の小児医療環境を考える」をテーマにこの領域の関係者が一堂に集い、小児医療の現状や家族の期待、薬剤師の役割、製剤技術などについて講演する予定だ。