腱・靭帯の研究で必須とされていた、マウスより大きい遺伝子改変動物の作製
東京医科歯科大学は6月28日、ノックアウトラット(遺伝子を改変したラット)を作製するという世界的にも先進的な手法を用いて、Mohawk(Mkx)いう遺伝子の異常が腱の病的な骨化に至るメカニズムを見出したと発表した。
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この研究は、同大大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の浅原弘嗣教授、伊藤義晃助教らの研究グループと、同大学大学院医歯学総合研究科整形外科学分野、生体材料工学研究所物質医工学分野、医歯学研究支援センター、医学部附属病院高気圧治療部および米国スクリプス研究所との共同研究によるもの。研究成果は、国際科学誌「Proc Natl Acad Sci USA」オンライン版に6月27日付けで発表された。
腱・靭帯は身体の各組織を繋ぐロープのようなもので、この組織が全身の動きを支え、力を伝えることで、“動く”ことが可能になるが、この発生・再生のメカニズムはまだ不明の点が多く、腱・靭帯の損傷や疾病の完全かつ早期の治癒は未だに困難とされている。研究グループは腱・靭帯の再生の要となる遺伝子Mkxを同定していたが、遺伝子改変マウスではサイズが小さいため、十分な生理学的、分子生物学的、組織学的な研究が行えず、さらなる研究では、マウスより大型の動物での遺伝子改変動物の作製が必須となっていた。
腱・靭帯の治療開発や人工靭帯作製など再生医療への応用に期待
研究グループは、CRISPR/Cas9システムという新しい遺伝子編集技術を導入することで、ラットの遺伝子を改変し、ノックアウトラットを作製することに成功。このマウスは、今まで主に研究されていたマウスに比べ数倍の大きさがあり、マウスでは困難であった研究を進めることができるとしている。
ノックアウトラットをさらに詳細に解析すると、出生後まもなくアキレス腱が骨化しており、改変された遺伝子Mkxは腱・靭帯の中心的な遺伝子で、この欠損でラットのアキレス腱の骨化を引き起こすことがわかった。このメカニズムとして、腱細胞に対する機械的な伸展刺激(メカノ刺激)が、Mkxという遺伝子スイッチを押すことで、腱・靭帯を守り、骨化を妨げることが明らかになったとしている。さらに、このノックアウトラットから得られた十分量の腱細胞を用い、クロマチン免疫沈降と次世代シークエンサーを組み合わせた研究手法によって、腱を再生し維持する遺伝子のプログラムを詳細に明らかにすることができたとしている。
遺伝子Mkxを用いた腱・靭帯の傷害や疾病の診断・治療の開発や、人工靭帯の作製など再生医療への応用が期待されると、研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース