消化器症状の副作用軽減するメカニズム解明
味の素株式会社は6月28日、アミノ酸シスチンとテアニン摂取が抗がん剤の消化器症状の副作用を軽減するメカニズムを解明したと発表した。
画像はリリースより
同社が研究支援を続けてきた仙台オープン病院院長、土屋誉医学博士の研究グループは2014年に、アミノ酸シスチンとテアニンの摂取により、抗がん剤による下痢や口内炎などの消化器症状の副作用を軽減し、治療の完遂率を有意に改善することを確認。同社のイノベーション研究所は、このメカニズムを解明し、その研究成果を6月23日にオーストラリアで開催されたがん支持療法で世界最大の学会である第25回国際がんサポーティブケア学会で発表したとしている。
近年、経口の抗がん剤の進歩により、入院せず仕事や日常生活を続けながら抗がん剤治療を実施できるようになったが、抗がん剤の多くはその投与により腫瘍だけでなく正常な腸管上皮細胞の細胞死を引き起こし、腸管のバリア機能を低下させる。これにより、体内に侵入した腸内細菌が炎症反応を誘発することで、さらに腸管上皮細胞の増殖の抑制および細胞死を引き起こし、下痢や口内炎などの消化器症状の副作用が発生すると考えられている。そのため抗がん剤の減量や投与の中止につながることも多く、副作用の軽減が抗がん剤治療の課題となっている。
マウスの腸管上皮細胞と下痢症状の経時的変化観察
今回発表された研究では、抗がん剤TS-1の主成分であるフルオロウラシル(5-FU)を投与し、下痢などの消化器症状の副作用を起こしたマウスにおいてアミノ酸シスチンとテアニンの摂取による腸管上皮細胞と下痢の症状の経時的変化を観察。アミノ酸シスチンとテアニンを与えていないマウスの腸管上皮細胞では、5-FUを投与した翌日には抗がん剤による細胞死が観察され、投与した4日後には炎症反応による細胞死が観察された。
一方、アミノ酸シスチンとテアニンを与えると、土屋医学博士のグループによるヒト試験の結果と同様に、マウスでも下痢の症状が改善。このマウスの腸管上皮を調べた結果、抗がん剤による細胞死は抑制せず、間接的な影響である腸管上皮細胞の増殖の抑制および細胞死を改善することが示されたとしている。
今回、アミノ酸シスチンとテアニンの摂取により抗がん剤投与時の腸管上皮細胞の細胞死を抑制することが判明し、下痢などの消化器症状の副作用の軽減に幅広く利用できる可能性が示唆された。なお、アミノ酸シスチンとテアニンの摂取は生体内で抗酸化作用や免疫調節作用を持つグルタチオンを増加させ、炎症反応を抑制することも報告されている。
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