■医療薬学フォーラムで報告
医療用医薬品の小児適応取得や小児用製剤の開発が海外で進展し、国内でも関係者の意識が高まりつつあることが25、26日、大津市で開かれた医療薬学フォーラムのシンポジウムで強調された。医療機関、製薬会社、関連学会のそれぞれで動きが見られるほか、小児の治験を行わなくても小児の適応を取得できる仕組みの検討が今後、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で進められる見通しが示された。
国内で小児に使用される医療用医薬品の多くは、添付文書に適応症や用法・用量の記載がなく、適応外で使用されている。大人に比べて小児の患者数は少なく採算性が低いことに加え、治験の同意取得が難しかったり、小児特有の薬物動態を考慮する必要があったりして、製薬会社は小児用薬の開発に二の足を踏む傾向が強いためだ。
欧米の規制当局は、小児の適応を取得した場合には独占特許期間を延長するなどインセンティブを付与したり、小児治験を義務化したりして、製薬会社の取り組みを促している。実際に海外における小児治験の実施件数は増えつつある。
一方、日本では再審査期間延長というインセンティブは存在するが、法的に小児治験を義務づける規制はない。シンポジウムで講演したPMDAの大串洋子氏は、今後の適応促進施策の一つとして「米国食品医薬品局(FDA)などでは小児臨床試験を実施しないで、モデリングアンドシミュレーションを活用して小児適応を承認する事例も出てきている」と報告。今秋から始まるPMDAの次世代審査体制の中にこの取り組みを導入することが、今後検討されると見通しを語った。
一方、小児医療施設の立場から齊藤順平氏(国立成育医療研究センター薬剤部)は、昨年7月に同センター内に設立した製剤ラボについて紹介した。
製剤ラボは、小児適応はあるが適当な規格や剤形がない医薬品や、小児用剤形はあるが服用性や取り扱いが不十分な医薬品を主な対象に、未だ十分に存在していない小児用製剤の開発を促進するために設立したもの。治験薬GMPに準拠して小児用治験薬や臨床試験薬を製造するほか、品質試験、製剤試験を実施。さらに治験や臨床試験の実施支援、開発段階での相談応需、必要な小児用剤形の調査・研究などを行う。今年6月現在1製剤について稼働しており、今後医師主導臨床試験が実施される計画だ。
製薬会社の立場から小島宏行氏(アステラス製薬製剤研究所)は、顧みられない熱帯病の一つ、住血吸虫症治療薬の小児製剤開発に関わった経験を説明した。
住血吸虫症は患者の9割以上がアフリカに集中し、小児の罹患率が高い。治療には1970年代にメルク社が開発したプラジカンテルが使用され、高い有効性と安全性を有するが、小児適応はない。錠剤は大きく、小児には粉砕投与されるが、原薬の不快な苦みによって服用しづらいことが課題になっている。
この課題を解決するため製薬会社6社によって国際的な非営利コンソーシアムが形成された。その1社としてアステラス製薬は小児用剤形の開発を担当。飲みやすく、個数で用量を調節できるように、小児用錠剤の大きさを現行製剤の4分の1にした。さらに、水なしでも服用可能な口腔内崩壊錠にし、特定の化合物を加えて苦みを軽減させた。
小島氏は「高度な技術を採用せず、低コストで、現地でも製造できることを意識して開発した」と語った。第II相臨床試験は今月から開始。来年には第III相臨床試験が始まる予定だ。
このほか、学会の立場から日本薬剤学会個別化製剤フォーカスグループのリーダーを務める原田努氏(昭和大学薬学部)は、医療現場の状況や患者の声に耳を傾けることが重要と強調。同グループが主体となって製薬会社の担当者らが医療現場で実習を受ける機会を今年度から設けるほか、小児製剤の基盤技術の研究、小児製剤製造ハンドブックの策定などにも取り組む考えを示した。