同センターは建物の老朽化に伴い、隣接する大学施設跡地を活用して新本館を開院すると共に、院外処方箋の全面発行を中止。関西医科大学附属滝井病院という名称も、現在の名称に改めた。薬事日報の取材に応じた同センター院長の岩坂壽二氏は、院内調剤に戻した理由について「まず、患者さんの費用面の負担を軽減したかった。また、外に行かなくても1カ所で薬をもらえることによって、患者さんの利便性は高まる」と語る。
院外処方箋の全面発行には「メリットを感じられなかったというのが16年ほどやった上での印象」。国の方針に沿って実施したものの「患者サービスが低下するということになれば、何をしているのか分からない」と話す。全面発行を続けるより院内に戻した方が患者サービスは向上すると見込み、それによって病院の評価を高めたいという。
2000年の全面発行開始当初は門前に薬局は1軒しかなく、大阪府薬剤師会の協力を得てFAXコーナーを設置。かかりつけ薬局の事前登録を推進し、院外処方箋の7~8割は広域の薬局に分散した。「後になって考えると当時は理想的な分業形態だった」(同センター薬剤部長富田浩氏)
現在は、京阪電車滝井駅と同センターを結ぶ100mにも満たない道路沿いなどに7軒の薬局が林立している。「昔は花屋もレストランもケーキ屋もあったが、町の景観が変わってしまった」と岩坂氏。「門前の薬局は夜間や休日には店を閉め、日用雑貨などもあまり置いていない。あれだけたくさんある薬局が住民の役に立ってない。何のためにあるのか」と嘆く。門前薬局に対する不満が年々強まっていたという。
■外来用に11人雇用‐短期的には支出増に
こうした背景から同センターは全面発行の中止に踏み切った。処方箋送信専用FAX2台のみを配置し、大阪府薬のFAXコーナーは廃止。病棟業務には引き続き力を入れるため、外来調剤要員として新たに薬剤師を11人増やし40人体制にしたほか、SPDを導入し業務の効率化を図った。調剤エリアを広く設け、必要なシステムを購入。1階の会計窓口近くには、最大で同時に8人の患者に対応できる「お薬渡し窓口」を設置した。
患者には、院内で薬を渡す方針を周知している。その上で医師は必要に応じて診察時に患者の意向を聞き、電子カルテ上で院内か院外かを選択する。新規患者の初期設定は院内。再診患者では前回の設定が踏襲される。
院外処方箋の発行枚数は1日約700枚。以前は100%に近かった院外発行率は40%台半ばになった。現状ではまだ全てが院内に切り替わってはいない。患者の希望で院外発行を継続したり、採用薬がない場合には医師が自ら院外を選択したりすることもある。また、新本館開院前から通院する患者では院外発行が標準設定になっており、医師が患者に聞くのを忘れて、そのまま院外が継続される場合もある。
「院内の比率を急激に伸ばす気はない。じわじわ伸びていけばいい。その方が安いし便利だと思ったら院内にしてもらったらいいし、院外が便利だと思えばそうしてもらったらいい」と岩坂氏は語る。
院内に切り替えた患者からは、処方オーダ後、最短20~30分で薬を受け取れるため、「会計を終え窓口に来るともう薬ができていると喜んでいただけるケースが少なくない」(富田氏)。入院中の経過を知っている薬剤師が外来移行後に窓口で対応できたことも「よかった」という。
病院経営面から見ると、院内に50%台半ばしか戻っていない現在は、人件費など支出の増加分が収入の増加分を上回り収益には貢献していない。院内に戻すのは「冒険だしリスクの方が大きい。人件費は増え、場所も必要。外来対応用にシステムも増やした。短期的な収支を考えると従来通り院外発行を続けていた方が安全。だが、それでは1歩伸びた病院にはなれない。ここ数年、病院の黒字化を果たしたからこそ踏み切ることができた」と岩坂氏は話している。