■不適切処方と高い相関
多種類の薬を服用している高齢者の有害事象を減らすため、国立病院機構栃木医療センターが昨年1月に開設した「ポリファーマシー外来」の取り組みを進めた結果、1年間で薬剤数を平均4.0剤中止したことが分かった。対象となった外来患者47人に処方されていた薬剤は全422剤で、そのうち237剤が削減され、全体の中止率は56.2%に上った。特にポリファーマシー外来の受診患者は、ビアーズ基準、STOPP基準による潜在的な不適切処方(Potentially Inappropriate Medications:PIMs)の割合が高率で、PIMsとポリファーマシーの相関が大きいことが確認された。
高齢者に対する不適切なポリファーマシーが社会問題化しているが、未だその効果的な介入方法は確立されていない。近年では、多職種チームによる包括的な介入が注目されているが、その介入効果についても、やはり十分に検討されていないのが現状となっている。こうした中、同センターでは昨年1月から外来受診で薬への介入を行う「ポリファーマシー外来」を開設。院内の入院患者に対して、医師、薬剤師、看護師による多職種チームを結成し、ポリファーマシーへの包括的な介入を開始した。
今回、昨年1月から12月までに同センターに入院した整形外科病棟と地域包括ケア病棟の患者47人を対象に、介入前と退院時の処方薬剤数の変化を評価し、ポリファーマシー外来の効果について検討した。外来を受診した患者の平均年齢は80.5歳、受診医療機関は平均1.7医療機関、基礎疾患は高血圧や脂質異常症など平均6.7疾患だった。
その結果、薬剤数の変化を見ると、受診患者47人について、平均で介入前の9.0剤から介入後には5.0剤と、平均4.0剤減らした。生活習慣病の患者が多く、最大で18種類もの薬剤が処方されていた。処方された薬剤は全部で422剤、そのうち介入によって237剤が中止され、全体の中止率は56.2%と、処方されていた薬剤の半数以上を削減していたことが分かった。
処方されていた薬剤で、最も多かったのが経口血糖降下薬と便秘薬の26剤、次いでカルシウム拮抗薬24剤などとなった。また、薬剤種類ごとの中止率を見ると、睡眠薬が70.6%と最も多く、次いで粘膜保護剤が64.7%、カルシウム拮抗薬が62.5%と、睡眠薬の中止率が高いことが判明した。
多職種チームのまとめ役で、ポリファーマシー外来で診察する同センターの矢吹拓内科医長は、「睡眠薬の中止率が高かったのは、骨折や転倒との関連を考え、積極的に介入したからではないか」と分析している。最も多く処方されていた便秘薬の中止率は15.4%と非常に低く、高齢者にとって症状を緩和するような薬剤の処方中止が難しい現状も浮かび上がった。
さらに、高齢者のPIMsの目安であるビアーズ基準、STOPP基準に該当する患者の割合を見ると、それぞれ74.5%、83.5%と高く、ポリファーマシー外来受診患者とPIMsには強い相関があることが分かった。
一方で、中止率を比較すると、ビアーズ基準該当薬剤59%、STOPP基準該当薬剤57%、基準には該当しない薬剤57%であり、各基準を満たした薬剤だけを中止しているわけではなく、むしろ基準は薬剤中止にはあまり影響していない可能性が考えられた。
矢吹氏は「ビアーズ基準やSTOPP基準だけをもとに単純に薬剤中止をするのではなく、薬剤ごとに丁寧にメリット・デメリットを吟味しながら、患者や家族と十分なコミュニケーションを取って、介入すべきか否かを検討することが重要」と指摘している。