Dkk1とCKAP4の結合でがん細胞の増殖促進
大阪大学は6月21日、膵がんと肺がんにおいて発現する2つのタンパク質Dkk1とCKAP4が結合することにより、がん細胞の増殖を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座(分子病態生化学)の菊池章教授の研究グループと、同研究科の消化器外科、呼吸器外科、病理学の研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、米医学誌「Journal of Clinical Investigation」オンライン版に6月20日付で掲載された。
画像はリリースより
2013年度の日本における部位別がん死亡率において、膵がんは男性の第5位、女性の第4位で、肺がんは男性の第1位、女性の第2位と男女問わず高い死亡率だった。いずれも早期発見が困難であり、確定診断時に、治癒切除不能である例が多く存在する。
これまでにもがん細胞の増殖を促進するタンパク質の同定が行われ、それを攻撃する薬剤が開発されてきた。肺がんに対しては、分子標的治療薬として著効を示す薬剤も開発されているが、適応症例が限られ、治療が奏功しても経過中にがんが薬剤に対する耐性を獲得する。また、膵がんに対しては、良好な結果を得られる薬剤はいまだ開発されておらず、副作用が少なく良好な治療効果の得られる新規の抗がん剤の開発が求められている。
早期発見につながる診断薬、効果高い治療薬の開発へ
膵がんや肺がんでは、Ras(ラス)やEGF受容体と呼ばれるタンパク質の異常が高頻度に認められる。これらのタンパク質は正常細胞の増殖を促進する役割を持ち、がん細胞では異常に活性化されるために細胞が無制限に増殖すると考えられている。分子標的治療薬は、これらの異常活性化を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑制するが、その効果は限定的。したがって、がんの促進に働く新たなタンパク質を見つけ、そのタンパク質の働きを阻害する抗がん剤を開発して既存の抗がん剤と併用することにより、がんを治療することが望まれている。
Dkk1はこれまでに膵がんや肺がんに多く発現して、がんを増悪することが知られていた。Dkk1は細胞外に分泌されるため、がん細胞の増殖を促進するためには細胞表面に存在する受容体に結合して、情報を細胞内に伝えなければならないが、Dkk1の受容体の実体は不明だった。
菊池教授ら研究グループは今回、細胞表面に存在しているDkk1に結合するタンパク質を網羅的に解析することにより、CKAP4と呼ばれるタンパク質がDkk1の受容体として働くことを発見。さらに、Dkk1とCKAP4が結合すると、がん細胞の増殖を促進することが知られているタンパク質「AKT」を活性化することもわかった。膵がんと肺がんの60%以上の患者でDkk1とCKAP4が多く発現しており、両タンパク質が多く発現しているがん患者の予後が悪いことも明らかなった。
さらに、研究グループが作製したCKAP4に対する抗体は、Dkk1とCKAP4の結合を阻害し、その結果、がん細胞の増殖を抑制することがマウスの実験で証明された。これにより、CKAP4抗体が将来がん治療に有効に働く可能性が出てきたとしている。
CKAP4抗体はDkk1とCKAP4の両タンパク質が同時に多く発現しているがん細胞に有効であるため、両タンパク質が発現していることを調べることにより、CKAP4抗体を投与する患者を選択することが可能になる。今回の発見は、両方のがんの早期発見につながる新たな診断薬や、効果の高い治療薬の開発に貢献することが期待できる、と研究グループは述べている。
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