健常者、乳がん、大腸がん患者の尿検体識別
株式会社日立製作所は6月14日、住商ファーマインターナショナル株式会社および住友商事株式会社(住友商事グループ)とともに、尿中の代謝物を網羅的に解析することにより、健常者、乳がん患者、大腸がん患者の尿検体を識別する基礎技術の開発に成功したと発表した。
画像はリリースより
現在、日本では少子高齢化が進む中、医療費を含めた社会保障費の増大が大きな社会問題になっている。がんに罹った場合、医療費のほか、早期死亡によって生じる労働価値の損失を含めた経済的疾病費用は約10兆円規模になると算出されている。今後、労働人口の減少が予測される中、医療費のみならず労働損失を低減するためにも、がんの早期診断、早期治療の実現が重要といえる。
しかし、血液検査など腫瘍マーカー検査に代表される現在のがん検査は、医療検査機関での受診が必須であることや、全身のがんを一度に検査できる技術が確立されていないことから、受診者にとっては時間的、経済的な負担が多い。医療機関の少ない地域では、受診機会を得難いことが、がんの早期診断、早期治療の妨げとなっている。そのため、誰もが簡便にがん検査を受けることができる技術の確立が求められている。
そこで日立は、受診者自身で採取することができる尿を用いた検査方法に着目。尿検体を用いた新たながん検査方法とそのプロセスを確立するため、基礎技術の研究を推進してきたという。
誰もが簡便にがん検査受けられる技術の確立めざす
日立は住友商事グループと協力し、年齢、性別、がんの有無などの情報が付与された、健常者、乳がん患者、大腸がん患者の市販の尿検体各15検体を対象に、液体クロマトグラフ/質量分析計を用いて尿代謝物の詳細解析を実施。代謝物の水溶性や脂溶性の違いに着目して測定条件を最適化することで、それぞれの尿検体から、従来の2倍以上となる1,300を超える代謝物を検出した。
それぞれの患者群の尿中代謝物を比較したところ、含有量が大きく異なる代謝物があることを発見し、バイオマーカー候補となる物質を10個程度まで絞り込んだ。そして、主成分解析を行った結果、特定したバイオマーカー成分の含有量から、健常者、乳がん患者、大腸がん患者それぞれの尿検体を識別することに成功した。
今回得られた成果は、将来、受診者自身が尿検体を採取し、これを医療検査機関に送ることでがん検査を可能とする新しい検査スタイルの確立に道を開くもので、がん検査の受診機会の増大に寄与する可能性がある。今後、日立と住友商事グループは、がんとバイオマーカー候補となる物質との関連を詳細に調べ、大腸がん、乳がん以外のがんの識別および実用化に向けた研究を推進していきたいとしている。
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