補助化学療法で恩恵受ける患者の選別が必要
国立がん研究センターは6月14日、肺腺がんの手術後の転移のリスクを低下させる目的で行われる補助化学療法の効果予測のためのバイオマーカーとして、ACTN4の有用性を報告した。この研究は、国がん研究所創薬臨床研究分野の本田一文ユニット長の研究グループと台湾・台北市のAbnova社との共同研究によるもの。研究成果は、米国科学誌「Oncotarget」に掲載されている。
画像はリリースより
肺腺がんは、非小細胞肺がんの中でも最も多く60~65%を占め、女性の罹患も多いことで知られている。転移活性を持つ腫瘍の場合は、手術切除範囲以外の場所に微小な転移がんが存在しており、手術後に再発する可能性がある。患者ごと、腫瘍ごとに転移のしやすさは異なるが、その予測は困難で、肺腺がんを含む非小細胞肺がんでは、転移のリスクを低下させるため、手術後に補助化学療法を行うのが現在の標準治療となっている。
II/IIIA期の非小細胞肺がんでは、シスプラチンとビノレルビンを用いた補助化学療法について、受けなかった患者の死亡リスク比が、受けた患者に比較して、1.27~1.58倍程度高くなることが、IB期の肺腺がんではテガフール・ウラシル配合剤(UFT)による補助化学療法の有用性が証明され、それぞれ標準治療として推奨されている。
しかし、肺腺がんを含む非小細胞肺がんに対して、前向き臨床試験で示された術後補助化学療法の全生存期間延長に及ぼす恩恵(I~III期全体の5年生存率においておよそ5%の改善効果)は十分に大きいとは言えず、さらに非小細胞肺がん患者の多くが65歳以上であることを考慮すると、補助化学療法で恩恵を受ける患者群を効率よく選別し、術後補助化学療法を実施するためのバイオマーカーが求められている。
補助化学療法の個別化医療開発へ
ACTN4は、浸潤・転移の性質を評価するバイオマーカーとして国がんで同定された分子。補助化学療法を受けなかったI期の肺腺がんの患者群について、ACTN4の遺伝子増幅やタンパク質発現が高い患者群と正常な患者群を検討したところ、ACTN4の発現が高い患者群において予後不良になることが確認されている。しかし、これら予後不良な患者に対し、補助化学療法が効果を及ぼすかはわかっていなかった。
そこで、ACTN4と補助化学療法の関係を解明するため、カナダ国立がん研究所が公開しているシスプラチンとビノレルビンによる補助化学療法の有効性を評価した臨床試験(JBR.10)の遺伝子発現と患者背景、補助化学療法の有無などのデータを用いて、IB/II期非小細胞がん患者のACTN4の情報などを抽出し、再解析を実施。ACTN4の発現が高い患者と低い患者について、補助化学療法の有無での生存期間の比較を行った。その結果、ACTN4の発現が高い患者に補助化学療法を行うことで死亡の相対リスクを73%減らす可能性を示唆。一方、ACTN4の発現が低い患者においては補助化学療法による生存期間における有意な差はみられなかった。
また、マウスによる実験では、ACTN4の発現を減弱させた肺腺がん細胞株は、抑えていない対照細胞株に比較して明らかに肺への転移活性が抑制された。しかし、シスプラチンやビノレルビンに対する化学療法の感受性に変化はなかった。この結果は、がん細胞が持つ転移のしやすさをACTN4で事前に評価することにより、補助化学療法が必要な対象を明確にするバイオマーカーとしての有効性を示唆するものといえる。
現在、研究グループは、ACTN4の遺伝子増幅とタンパク質発現を手術検体で確認するための検査キットを作成中。今後は、検査キットの体外診断薬化を目指し、補助化学療法における個別化医療の開発を行いたいとしている。
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・国立がん研究センター プレスリリース