日本含む東アジアで発症率高い脳出血
国立循環器病研究センターは6月10日、急性期脳出血患者への適切な降圧目標を解明したと発表した。この研究は、国循脳血管部門の豊田一則部門長とデータサイエンス部の山本晴子部長らを共同研究者として、米国National Institutes of Healthの助成を受けた研究者主導国際臨床試験ATACH-2のデータを解析したもの。その論文は、米総合医学雑誌「The New England Journal of Medicine」オンライン版に、6月8日付けで掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中は日本の要介護原因疾患の首位を占めるにもかかわらず、治療開発が遅れている。日本において、脳出血は脳卒中の17~30%を占め、脳出血の発症率は欧米諸国の数倍である。脳出血は死亡や機能障害につながりやすく、発症率そのものは倍以上の脳梗塞と同等以上の経済的損失を与えると試算される。また、脳出血は日本を含めた東アジアで発症率の高い疾患であり、アジア主体の視点での治療法開発が望まれている。
急性期脳出血患者では、その46~75%に血圧上昇を認める。脳出血に伴う急性高血圧に対して、国内外の指針では降圧療法を推奨しているが、具体的な降圧目標値は明らかではなかった。2013年に豪州や中国などが参加したINTERACT-2試験の結果がNEJM誌に掲載され、超急性期に収縮期血圧を140mmHg未満に下げることが、3か月後の転帰不良の割合を減らす傾向があるものの、有意な治療群間差を得るには至らず、同種試験の結果が待ち望まれていた。このため、INTERACT-2と同時期に企画されたATACH-2試験では、INTERACT-2との成績の異同が注目されていたという。
日本人に有効な急性期脳出血治療法に期待
ATACH-2試験は、第3相、多施設共同、無作為化、同時対照比較、並行群間試験で、日米をはじめ中国、台湾、韓国、ドイツの6か国が参加。発症から4時間半以内に治療開始可能な脳出血患者を中央無作為化方式で積極降圧群(収縮期血圧110~140mmHg)と標準降圧群(140~180mmHg)とに1:1の割合で割付け、ニカルジピン静脈内投与によって24時間にわたって目標血圧範囲を維持したとしている。
同試験では、2011年5月から2015年9月までに1,000例の患者が登録。アジアの4か国から過半数の562例(56%)が登録され、うち日本からは288例(29%)が登録された。治療開始後2時間で、積極降圧群では平均収縮期血圧129mmHgに、標準降圧群では141 mmHgに到達。24時間後の頭部CTで血腫増大を認めた割合は、積極降圧群の18.9%、標準降圧群の24.4%を占め、前者で有意に少ない傾向を認めた。しかし、主要評価項目である3か月後の死亡または高度障害の割合(modified Rankin Scaleでの4~6に相当)はそれぞれ38.7%と37.7%で、有意差はなかった。降圧治療に関連する重篤有害事象はそれぞれ1.6%と1.2%だった。
同試験の結果は、先行するINTERACT-2とやや異なる。特に、同試験では標準降圧群で到達した収縮期血圧が、設定範囲である140~180mmHgの下限であったことから、両群とも比較的厳格に降圧され、治療転帰に差が出にくかったと考えられる。少なくともアジア人が過半数の患者集団において、収縮期血圧140 mmHg未満への急性期降圧が脳出血患者に安全であることが確認できたとしている。
今後、ATACH-2試験のさらなる解析結果を経て、真に日本人に有効な急性期脳出血治療法が解明されていくことが期待される、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース