患者数70万人、治療受けていない人はその3~4倍と推定
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は6月9日、43人の大うつ病性障害患者と、57人の健常者の腸内細菌について、善玉菌であるビフィズス菌と乳酸桿菌の菌数を比較したところ、大うつ病群は健常者群と比較して、ビフィズス菌の菌数が有意に低いこと、さらにビフィズス菌、乳酸桿菌ともに一定の菌数以下である人が有意に多いことを世界で初めて明らかにしたと発表した。
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この研究は、NCNP神経研究所の相澤恵美子研究員と功刀浩部長、株式会社ヤクルト本社中央研究所の辻浩和室長らを中心とする共同研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Affective Disorders」オンライン版に5月24日付けで掲載されている。
現在、うつ病患者数は70万人と推定されており、治療を受けていない罹患者はその3~4倍とされ、国民の健康をおびやかす重大な病気のひとつとなっている。その原因として、これまでに神経伝達物質の異常、ストレス反応における内分泌学的異常、慢性炎症などの生物学的な要因が提唱されてきたが、いまだに不明な部分が多い現状がある。
ヒトの腸内には100兆個、重さにして約1~1.5kg、1,000種類以上もの腸内細菌が生息し、食物からの栄養素の吸収、ビタミンやタンパク質の合成、体外からの新たな病原菌の侵入の防止など、多岐にわたる重要な機能を担っている。近年、腸内細菌は脳の機能にも影響を与えることを示唆する研究結果が次々に報告されており、うつ病の発症要因として注目されるようになっていた。
プロバイオティクス摂取、うつ病予防・治療に有効の可能性
今回の研究では、米国精神医学会の診断基準DSM-IVによる43人の大うつ病性障害患者と57人の健常者の便を採取して、ビフィズス菌と乳酸桿菌(ラクトバチルス)の菌量を16S rRNA遺伝子の逆転写定量的PCR法によって測定し比較。菌数の測定は、それぞれの検体がうつ病患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で行われた。その結果、ビフィズス菌およびラクトバチルスの菌数のそれぞれの単純な比較では、大うつ病群は健常者群と比較してビフィズス菌が有意に低下しており(P=0.012)、ラクトバチルスの総菌数も低下傾向を認めたとしている。
被験者のうち、過敏性腸症候群合併している人の割合は、健常群に比較して、大うつ病群で有意に多いことも明らかとなった。健常者群では12%であるのに対し、大うつ病群では33%(オッズ比3.45、95%信頼区間1.27–9.29, P=0.014)で、ビフィズス菌やラクトバチルスの数がカットオフ値より低い人は、過敏性腸症候群症状をもつリスクが高いことが明らかになった。
さらに、ビフィズス菌や乳酸菌を多く含む乳酸菌飲料、ヨーグルトなどの摂取頻度と腸内細菌の関係を調べたところ、大うつ病性障害患者の中で週に1回未満の摂取の人は、週1回以上摂取習慣がある人と比較して腸内のビフィズス菌の菌数が有意に低いこともわかった。
今回、大うつ病性障害患者ではビフィズス菌などの善玉菌が少ない人が多く、うつ病発症リスクとなることや、過敏性腸症候群のようなストレス性心身症との関連や、乳酸菌飲料やヨーグルトの摂取量とビフィズス菌数との関連もみられたことから、乳酸菌飲料やヨーグルトなどのプロバイオティクスの摂取がうつ病の予防や治療に有効である可能性が考えられる。
今後研究グループは、他の菌との関係や、人体に良い影響を与えると言われているプロバイオティクスを投与した介入研究に取り組み、その効果を実証し新たなうつ病治療の開拓につないでいきたいとしている。さらに、善玉菌を詳しく分類した場合、どのような種類の菌がうつ病の治療や予防に効果があるかについても解明していきたいと述べている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース