心肥大や心不全などで上昇するNCX1活性
岡山大学は6月6日、心不全の発症・重篤化の過程でNa+/Ca2+交換体(NCX1)の活性が著しく低下していることを発見、低下したNCX1活性を回復させることで心不全の進行を抑制できると発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科(医)の片野坂友紀助教、川崎医科大学の氏原嘉洋助教、毛利聡教授ら研究グループによるもの。研究成果は、欧州心臓病学会誌「Cardiovascular Research」に5月26日付けで掲載されている。
画像はリリースより
NCX1は、心筋細胞において唯一の細胞外へのCa2+排出系として働くことが知られている。心肥大や心不全などの病的な心臓では、NCX1の活性が上昇するとされているが、これがストレスに対する適応的応答の結果であるか、あるいは病気を重篤化させる悪性因子であるかは明らかになっていなかった。
研究グループは、大動脈を結紮(けっさつ)した高血圧モデルマウスを作製。心不全の発症・重篤化の過程で、NCX1の活性が著しく低下していることを明らかにした。さらに、心筋細胞のみに任意のタイミングでNCX1を高発現することが可能な遺伝子改変マウスを作製し、低下したNCX1活性を回復させることで、心不全の進行を抑制できることが示されたという。
NCX1の活性低下を防ぐ薬剤開発に期待
今回の研究の結果は、高血圧により心臓の仕事が増加すると、まず適応的な応答として、NCX1の活性が上昇。心臓の働きを維持しようとするものの、心不全が進行する過程ではNCX1の活性が低下することを示している。また、低下したNCX1の活性を回復させると、心筋細胞の形や働きが維持され、心臓全体としても血液を送り出す働きが保たれることが明らかになった。
心臓のポンプ機能は、心筋細胞の収縮力に支えられており、心筋細胞の収縮には、Ca2+が必須だが、細胞内へのCa2+の蓄積は細胞死を引き起こす。心不全では心筋細胞内にCa2+が蓄積することが知られていることから、細胞外へのCa2+排出系として働くNCX1の活性低下を防ぐ薬剤の開発により、心不全の治療への応用が期待される。
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・岡山大学 プレスリリース