■抗菌薬使用の全国データ解析
診療報酬の感染防止対策加算を算定できていない病院は算定病院に比べて、抗菌薬の適正な使用がなされていない可能性がある――。村木優一氏(三重大学病院薬剤部副薬剤部長)らの研究グループが「抗菌薬使用動向調査システム」(JACS)で収集した2014年のデータを解析したところ、そんな傾向が明らかになった。未算定病院は算定病院に比べて抗菌薬の使用量が少なく、投与期間も長かった。この結果は、感染防止対策チームの活動などを評価した感染防止対策加算の有用性を示すことにもなり得るとしている。
JACSは、インターネットを通じて全国の病院から各抗菌薬の使用量、使用日数、施設の基本情報などのデータを収集する日本初の抗菌薬使用量大規模サーベイランスシステム。収集した情報を解析し、日本全体で抗菌薬の適正使用を推進するための指標になるデータを提供することを目指している。
データを入力する病院に対しても、抗菌薬使用量を示す指標として世界的に推奨されている抗菌薬使用密度(AUD)、抗菌薬使用日数(DOT)などを入力データから自動的に計算してフィードバックし、自施設での感染対策に役立ててもらっている。他施設と自施設の比較データも今後、提供する予定だ。
16年3月時点のJACS登録施設数は485病院。村木氏らはこのほど、14年分のデータとしてAUD、DOT値を入力した68病院を対象にデータを解析した。68病院のうち、感染防止対策加算1を算定する施設は44病院、同加算2算定施設は19病院、未算定施設は5病院という内訳。抗菌薬適正使用の指標となる「AUDをDOTで除した比」を加算の有無別に算出すると、加算1算定病院の平均値は0.88、加算2算定病院は0.9だったのに対し、未算定病院は0.47となり、算定病院より低かった。
これらの結果は、未算定病院において抗菌薬の1日使用量が少ないことや、投与期間が長いことを意味している。
安全性を重視し過ぎた抗菌薬の低用量投与や長期間投与は、薬剤耐性菌を出現させる要因として知られており、村木氏は「未算定病院では抗菌薬の適正な使用がなされていない可能性が推察された」と語る。逆から見ると、この結果は感染防止対策加算の有用性を示すことにもなり得るという。
さらに、加算1を算定する134病院、加算2を算定する45病院、未算定の16病院が入力した14年の施設情報を比較すると、「未算定施設では感染を専門とした医療スタッフが少ないことが明らかとなった。またそれに伴い、感染対策や抗菌薬適正使用に必要とされる介入やフィードバック、アンチバイオグラム等の環境も整っていないことが示された」としている。
実際に感染制御専門・認定薬剤師が存在する割合は、加算1算定病院、加算2算定病院、未算定病院の順に79%、35.6%、18.8%だった。同様に、感染防止対策チームとして医師の処方に介入しフィードバックしている割合はそれぞれ81%、46%、17%、細菌ごとに抗菌薬の感受性を表にまとめたアンチバイオグラムを作成している割合は同じく93%、74%、31%となり、人員や体制に格差が生じていた。