CNVを患者全体の約9%で同定、健常者よりも3倍程度高く
名古屋大学は6月8日、統合失調症の発症に強く関与するゲノムコピー数変異(CNV)を患者全体の約9%と高い頻度で同定、患者の臨床的特徴および病因の一端を解明したと発表した。
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この研究は、同大大学院医学系研究科精神医学の尾崎紀夫教授ら研究グループと、東京都医学総合研究所ら共同研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Molecular Psychiatry」オンライン版に5月31日付けで掲載されている。
統合失調症の有病率はおよそ1%と高く、患者数は国内だけで80万人に達するが、病因・病態の解明が進んでいないために、治療効果が不十分であり難治例が多い。家系内に疾患が集積していること、遺伝率が80%と高いことから、発症の関わるゲノム変異を見つけることが疾患の解明に重要であると考えられており、近年のゲノム解析技術の進展によって、発症に強い影響を与えるゲノム変異の報告も増加している。
CNVでは、発症リスクを最大で50倍程度に上げるものも見つかっているが、統合失調症の病因にどの程度CNVが関与しているかは、十分に明らかにされていなかった。
ゲノム不安定性や酸化ストレス応答異常などが関与の可能性
研究グループは、統合失調症患者1,699名と健常者824名を対象に、アレイCGHを用いて解析し、統合失調症の発症に強い影響を与えるCNVを探索した。その結果、発症に関わるCNVを患者全体の9%と、これまでに報告がない高い頻度で同定することができ、その頻度は健常者の約3倍に及ぶことが判明したという。
また、発症に関与するCNVはヒトゲノムのさまざまな場所に存在し、患者ごとに種類が異なること、統合失調症患者で同定したCNVには自閉スペクトラム症、知的能力障害などの神経発達症に関与するものが多数含まれ、精神疾患や発達障害は遺伝学的に連続であることも確認された。今回同定したCNVの中には、22番染色体の一領域(22q11.2)の欠失やX染色体の一領域(Xp22.31)の欠失が含まれており、身体的な疾患を生まれた時から持っているケースが多く、これらは2015年から難病医療費助成制度の対象疾病になっている。
CNVは、脳の発達に重要な遺伝子の機能に影響を及ぼすことで神経発達障害が起こり、最終的に精神疾患の発症に繋がると考えられているが、実際に発症に関与するCNVを持つ患者では、約4割で先天性あるいは発達上の問題を抱えており、また抗精神病薬を用いた薬物治療でも十分な効果を得られない場合が多いことも確認された。さらに、ゲノムデータを「バイオインフォマティクス」の手法を用いて詳しく調べたところ、統合失調症の病因には、従来報告されていたシナプスやカルシウムシグナルに加え、ゲノム不安定性や酸化ストレス応答異常が関与する可能性が示唆されたという。
今回の研究によって、発症に強い影響を持つCNVが統合失調症患者で高頻度に見つかったことから、今後はゲノム解析の結果を早期診断に応用できる可能性、さらに薬物治療への反応性を予測できる可能性も示唆された。同研究グループは、今回の研究で得られた知見から、精神疾患の病態を反映したモデル動物や患者由来のiPS細胞が作製され、病態メカニズムの解明や新しい治療薬の開発が進むことを期待したい、と述べている。
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