世界初、社交不安症に対する認知行動療法の有効性を臨床試験で実証
千葉大学は6月7日、抗うつ薬で改善しない社交不安症患者に対し、認知行動療法が有効であることを明らかにした臨床試験データを発表した。この成果は、宮崎大学の吉永尚紀講師と千葉大学の清水栄司教授ら共同研究グループによるもの。欧州医学雑誌「Psychotherapy and Psychosomatics」オンライン速報版に5月27日付けで掲載されている。
画像はリリースより
社交不安症(対人恐怖症)は、人との交流場面で生じる著しい不安や恐怖を主症状とする精神疾患。これまでの治療法として、抗うつ薬を用いた薬物療法は、社交不安症に対する標準的治療法として世界的に最も普及している。しかし、抗うつ薬治療では十分な改善を示さない患者が多いことが課題として指摘されており、次の有効な治療法が求められていた。
研究グループは、欧米で有効性が実証されてきた精神療法である認知行動療法について、国内での効果検証を進めてきていた。その過程で、抗うつ薬で改善を示さない社交不安症患者であっても、認知行動療法により、症状が顕著に改善されるという予備的な知見を得たという。
好酸球の機能を調節するIL-5が標的
今回の研究は、ランダム化割付・評価者盲検・並行群間比較(通常治療単独群 vs 認知行動療法併用群)による臨床試験として、1剤以上の抗うつ薬治療を受けたにもかかわらず症状が改善しなかった社交不安症患者を対象に、適格性を満たした42名を通常治療単独群21名、認知行動療法併用群21名が割付られた。
通常治療は、かかりつけ医の臨床判断に基づく治療であるため、薬物療法などの治療内容については変更を認めた。認知行動療法は、千葉大学が主催する千葉認知行動療法士トレーニングコースを修了した7名の治療者が、週1回50~90分の治療面接を計16回実施した。介入期間は両群とも16週間とし、治療の効果は、Liebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)を主要評価項目とする社交不安の重症度により判定した。なお、LSASの評価は、被験者の割付情報が隠蔽(盲検化)された2名の独立評価者により実施されたという。
16週間の介入期間を経て、主要評価項目のLSASは、通常治療単独群において変化がなかったのに対し、認知行動療法併用群では顕著な改善を示された(p<0.0001)。また、通常治療単独群では治療反応率10%・寛解率0%だったのに対し、認知行動療法併用群では治療反応率85.7%・寛解率47.6%だった(p<0.001)。さらに、抑うつ気分の重症度や生活障害度などの副次評価項目は、認知行動療法併用群の優越性を支持する結果となった。なお、研究期間中の抗うつ薬・抗不安薬の内服量は、群間で差はなかったとしている。
これらの結果から、標準治療となっている抗うつ薬で改善しない社交不安症患者に対して、認知行動療法を実施することで顕著な改善が期待できることが明らかになった。今回の研究は、抗うつ薬で改善しない社交不安症に対し、認知行動療法を行うことの有効性をランダム化比較試験によって世界で初めて示したものであり、国際的な社交不安症の治療ガイドラインの改定など、標準治療に貢献する貴重なデータとなることが期待される。
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