検体にスプレー、数分以内でがんが選択的に蛍光
東京大学は6月2日、種々の酵素をターゲットにした蛍光プローブを作成し、ヒト食道扁平上皮がんの生検検体を用いたスクリーニングを行ったところ、DPP-IV 活性検出プローブががん特異性を示したと発表した。
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この研究は、同大大学院薬学系研究科薬学専攻/医学系研究科生体物理医学専攻の浦野泰照教授、同大学大学院医学系研究科消化管外科学/医学部附属病院 胃・食道外科の瀬戸泰之教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」オンライン版に6月1日付けで掲載されている。
研究グループはこれまで、がん細胞で活性が上昇している特定のタンパク質分解酵素によって蛍光性へと変化する試薬(蛍光プローブ)を開発し、がんモデル動物でその機能を証明してきたが、ヒトのがんの性質は極めて多様なため、実際にヒト組織で真に有効かどうかはわかっていなかった。
感度96.9%、特異度85.7%、正診率90.5%
今回、研究グループは、食道扁平上皮がんに対して有用な蛍光試薬を開発。さまざまな酵素をターゲットとした蛍光試薬のライブラリーを作成し、ヒト生検検体を用いてスクリーニングを行ったところ、DPP-IV活性検出プローブががん特異性を示すことを明らかにした。
DPP-IV活性検出プローブは、蛍光プローブのうち、DPP-IV酵素を標的分子としたもの。同プローブをヒト外科手術において摘出した検体や内視鏡治療において摘出した検体にスプレーしたところ、 数分で食道がんを選択的に光らせ、周囲の正常組織と識別できることが明らかになったとしている。同プローブの診断能は感度96.9%、特異度が85.7%、正診率90.5%で、現在、日常診療で使われているルゴール染色法やNBI法など既存の方法に劣らない結果になった。
ルゴール染色法では、胸やけや気分不快といった刺激症状が強く頭頸部近傍の病変には使用できないことや、ヨードアレルギーのある患者には使用できないなどの問題がある。同プローブは毒性が低く、病変にスプレーするのみでよいため簡便であり、反応時間も数分単位と早いことも内視鏡診断に応用する際に利点という。
今回発表された手法の活用によって、これまで発見が困難だった早期食道がんの診断率が向上し、正確な範囲診断ができるようになることで、より根治性の高い内視鏡治療が期待できる、と研究グループは述べている。また現時点では、外科手術の際に、がんが取りきれたかどうかを評価する方法はないが、同プローブが手術中に使用できれば、がんの遺残を評価する新たな診断モダリティとして世界で初めての技術となる可能性もあると期待される。
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