アクロレイン、ポリアミンと酸化ストレス疾患の関連、分子レベルの解明望まれる
理化学研究所は6月1日、酸化ストレス条件下で、「アクロレイン」と「ポリアミン」から速やかに生成される8員環化合物が、アミロイドペプチドの凝集を阻害して細胞毒性を中和することを発見したと発表した。この研究は、理研 田中生体機能合成化学研究室の田中克典准主任研究員らと、愛媛大学大学院理工学研究科の座古保教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、独科学雑誌「Advanced Science」のオンライン版に同日付けで掲載された。
画像はリリースより
アルツハイマー病やがん、脳梗塞、慢性疾患など、酸化ストレスを原因とする疾患では、不飽和アルデヒド分子の中で最もサイズが小さいアクロレインが過剰に発生する。アクロレインは、他の分子との反応性が高く、細胞に対して強い毒性を持っており、酸化ストレス疾患では、脂質やタンパク質合成や細胞分裂に関与する因子であるポリアミンの代謝産物として過剰に発生したアクロレインがさまざまな生体内分子と反応することによって、酸化ストレスをさらに進行させると考えられている。
アルツハイマー病の患者では、ポリアミンの濃度が著しく上がっていることが知られている。このポリアミンは、アルツハイマー病の発症原因のひとつと考えられているアミロイドペプチドの凝集速度を著しく高めているとされている。アミロイドペプチドは凝集すると細胞毒性を示す。
そこで近年、アクロレインやポリアミンと、アルツハイマー病を代表とする酸化ストレス疾患との関連性について、分子レベルでの解明が望まれていた。
酸化ストレス疾患の発症メカニズム究明や治療法開発に期待
共同研究グループは、アクロレインがアルツハイマー病発症時に高発現するポリアミンと速やかに反応して、8員環化合物が生成されることを発見。さらに、この8員環化合物が、アルツハイマー発症の要因のひとつであると考えられているアミロイドペプチドの凝集を著しく抑え、アミロイドペプチドの細胞毒性を中和することも明らかにした。
これらの結果は、細胞が酸化ストレス条件下でアクロレインを発生し、ポリアミンなどさまざまな生体内アミンとの間で8員環化合物を形成することで、細胞機能を制御している可能性を強く示唆している。今後の酸化ストレス疾患の発症メカニズムの究明や治療法の開発に貢献すると期待される。
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