ここ数年の薬価制度改革とイノベーション重視の政策は評価
米国研究製薬工業協会(PhRMA)は6月1日、都内で記者会見を開催。来日中の同協会会長ジョージ・A・スキャンゴス氏が日本の薬価制度の在り方や世界における日本の医薬品市場の位置づけ、毎年の薬価改定制度の問題点などについて語った。
PhRMA ジョージ・A・スキャンゴス会長
世界を取り巻く医薬品産業の現状について、米バイオジェン社のCEOでもあるスキャンゴス会長は「創薬の大きな可能性が広がる素晴らしい時代」と語った。現在、全世界で7,000種類以上の新薬が臨床開発中であり、その約70%は画期的な薬になる可能性を秘めているという。
「小児の急性リンパ性白血病の5年生存率は、1960年代に10%未満だったのに対し、今日では90%以上になっている。原因ウイルスが特定されていなかったC型肝炎も治療可能な病気になり、HIVでさえ今では慢性疾患と呼べるようになっている」とスキャンゴス会長。こうした革新的な進歩は今後も続く、と期待のほどを語った。
現在、日本で行われている医薬品の開発は1,000を超える。その増加率は、04~09年が平均2.4%だったのに対し、2009~2015年では平均11.7%まで高まり、開発スピードは確実に上昇している。このような発展には、日本政府がここ数年で行った薬価制度改革とイノベーション重視の政策が大きな影響を与えているという。「PMDA(医薬品医療機器総合機構)の構造が補強されたことで新薬の承認にかかる時間は着実に短縮され、価格維持制度の導入と恒久化といった革新を後押しする施策が環境を一変させている。ドラッグ・ラグはそれまでの42か月(2006~2009年)から1年未満(2010~2014年)へと大幅に短縮。革新的な新薬を迅速に導入することも可能になっている」(スキャンゴス会長)
スキャンゴス会長「安倍首相とは非常に実りある話し合いができた」
一方、この環境を維持するためには、政策を維持し、意識的に選択をしなければならないという。スキャンゴス氏は「日本は世界で最も急速に高齢化が進んでいる。この高齢化と国の医療制度を維持するために必要な費用は直接的な相関関係にある。最も安易な道は革新的な医薬品の価格を下げることと思うかもしれないが、長期的には日本の患者やヘルスケア関連企業、日本経済の利益になる戦略ではない」と語った。
「日本政府内部では、新たな薬価引き下げの仕組みが議論されているが、その中には消費税増税と合わせた臨時の薬価調査や毎年の薬価改定、適応追加の際の薬価改定、成功を収めた革新的な新薬の薬価見直しも含まれている。イノベーションの芽を摘むような政策を採用すれば、制度の予測可能性や安定性が損なわれ、患者や製薬会社、日本経済に深刻な影響を与える可能性がある」とスキャンゴス会長。その影響例として、日本の医薬品市場のさらなる縮小とそれに伴う世界市場でのシェア縮小、ドラッグ・ラグの復活を挙げ、昨今の改革によって得たベネフィットを失う可能性を危惧した。
こうしたリスクを回避するためのひとつの施策として、スキャンゴス会長は、ジェネリック医薬品の浸透を挙げた。「ジェネリック医薬品やバイオシミラーをより多く使用することで医療費を抑制でき、その分、革新的新薬に回すことができる。米国の医薬品市場におけるジェネリック医薬品のシェアは、現在約9割を占めているが、日本ではおよそ6割程度。使用拡大の余地はある」(スキャンゴス会長)
同日朝、安倍晋三内閣総理大臣と話し合いの場を設けたというスキャンゴス会長。「安倍首相とは、非常に実りある話し合いができた。世界とのドラッグ・ラグなく新薬を日本の患者に提供することが重要であり、これを日本の医療制度のなかで、持続可能な方法で実施しなければならないという共通の認識を持っていることが理解できた」と語り、これまでに行われたイノベーション重視型の政策を、引き続き実施するよう期待を寄せた。