6家系・23人の患者の原因遺伝子探索
京都大学は5月27日、乳幼児期に手足の痛み発作が原因でよく泣いた人に共通して、3番染色体にある「SCN11A遺伝子」に変異があることが明らかになったと発表した。この病気は「小児四肢疼痛発作症」と命名。研究は、同大学医学研究科環境衛生学分野、秋田大学医学研究科小児科学講座を中心とした研究グループによるもので、研究成果は、米国の科学誌「PLOS ONE」に掲載された。
画像はリリースより
日本では、よく泣く子どもは「疳(かん)」が強いと言われてきたが、泣く原因は不明だった。共同研究グループは、2012年開始の調査により、疳の強い子供たちの一部では乳幼児期の手足の痛み発作が原因となっていることを明らかにした。見出された子供たちには、「乳幼児期に痛み発作がおこる」「手足の関節に発作的な痛みが繰り返し起こる」「青年期に軽快する」「寒冷や悪天候で痛みが誘発・悪化する」「親族にも同じ症状を認める」という特徴的な症状が共通してみられたとしている。今回の研究では、この原因不明の家族性小児疼痛疾患について、常染色体優性遺伝を示す6家系から23人の患者の原因遺伝子の探索を行った。
遺伝子の解析は「全ゲノム連鎖解析」という原因遺伝子が存在する染色体領域を明らかにする方法と、「エクソーム解析」という次世代シーケンサーを用いた全遺伝子のエクソン領域塩基配列を決定する方法を併用して実施。その結果、Nav1.9をつくるSCN11A遺伝子のp.R222Hおよびp.R222S変異が疾患の原因であることを明らかにした。
潜在的な患者多く、遺伝子検査による正確な診断推進
共同研究グループは、見つかった変異が痛みにつながるかどうかを検討するために、マウスのScn11a遺伝子に患者が持っている変異のうちのひとつであるp.R222S変異を導入したノックインマウスを作成。マウスの痛みの感じ方を評価する解析を行ったところ、ノックインマウスは患者と同様に機械的刺激、温刺激、冷刺激に対して正常マウスよりも痛みを感じやすいことがわかったとしている。
これらの結果から、SCN11A遺伝子のp.R222Hおよびp.R222S変異は痛み伝達神経を過剰に興奮させることで痛みを引き起こすと考えられる。SCN11A遺伝子の特定の部位に変異がある症例では痛みが主でそのほかの症状はなく、痛みは小児期にのみみられ、成人するとほぼなくなることが明らかになり、独立した「小児四肢疼痛発作症」として疾患概念を確立。また、原因変異を特定したことで遺伝子診断が可能になったとしている。
小児四肢疼痛発作症の子供たちは学童期には痛みが原因で学校を休みがちで、成長痛だと考えられ、青年期になれば痛みが軽快するので病気が見逃されていると推測される。まだ診断されていない潜在的な患者が数多く存在する可能性が高いと考えられ、今後は医療機関への調査を大規模に拡大し、遺伝子検査による正確な診断の推進と国内実態調査を進めていく、と共同研究グループは述べている。
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