4大学、11企業が参加予定の産学連携コンソーシアム
東京慈恵会医科大学は4月22日、医療ICTを推進する産学連携コンソーシアム「メディカルITメディアラボ」を発足したと発表した。同大学「先端医療情報技術研究講座」の髙尾洋之講座長を中心に、多くの企業と臨床・学術・教育機関がパートナーシップを組み、共同研究をする組織だとしており、参加予定も含めるとすでに4大学、11企業が名を連ねている。医療ICT分野のコンソーシアムとしては本邦では前例のない大規模なもの。主要メンバーの高尾洋之講座長(東京慈恵会医科大学 准教授)、岡村正太氏(株式会社ジェナ 執行役員)、畑中洋亮氏(株式会社アイキューブドシステムズ 取締役 社長室長)に、発足の経緯と今後の展望などについて聞いた。
「医師と企業が対等な立場で共同研究する新しいスキーム」(高尾准教授)
「2014年に、院内PHSの更新にあたって更新を取りやめ、スマートフォン導入が決定したことがラボ発足のきっかけです。せっかく導入するのであれば、医療のICT化に関して幅広く研究しようとなり『先端医療情報技術研究講座』を立ち上げました。日本では病院内でICTを実践的に試せる場がほとんどなく、試したい企業も単独ではなかなか持続していけないと思っていたので、そこでアイデアを持ち寄ったり、いろんな企業が話し合っていける集合体も必要だと思い『メディカルITメディアラボ』を発足しました」(高尾准教授)
畑中氏は以前より高尾准教授と「Team医療3.0」(http://www.tm3.jp/)で議論を重ねてきた仲だ。
「講座のほかにラボ、としたのは理由があります。ここは、臨床医でもある髙尾先生など医療研究者と、企業が対等な立場でリソースを持ち寄り共同研究する新しいスキーム。学術機関の講座という名前ではその意味や価値を外部発信しづらいと感じたのです。このラボに参画してくれる新しい方々とも、そういうメンタリティを含めたスキームでなければ続かない、広がらないと思いました。新しいパートナーシップを企業と研究/学術機関が結んで、課題に一緒に取り組んでいく場、だから“人が集まる場”として“メディア”というワードを入れています」(畑中氏)
「一緒にやる方法も多様にできると思います。企業はお金を出す以外に、プロダクトやノウハウ、人を出しますとか、あくまで課題解決のために、それぞれが得意として持っているものを提供し合うということですね。これから、このような取り組みが理解されれば参加したい企業は増えると思います」(高尾准教授)
「感情の集まりが、いいユーザー体験を作る」(岡村氏)
慈恵 Pepperには病棟内の人だかりができることも
現在、患者の現在位置をシステムへ知らせるビーコンを設置して、オンタイムにナビできるシステムを開発中のほか、毎週水曜日に「慈恵の歴史」について語るアプリをインストールしたPepperを配置している。
「私自身の思いとして『感情の集まりが、いいユーザー体験を作る』というのがありまして。アプリケーションは、通常インプットとアウトプットの世界しかない。でもビーコンやロボットを置いてそれらと連携することによって、現場の空気感というか、感情をすぐに捉えることができるようになる。簡単に言えば『これ使いづらいな』とか『こうだったらいいのに』という思いをいち早くキャッチして、すぐに改善へ取り組めるわけです。ユーザーの感想ならネット上にもたくさんある。ですが体験というか、ひとつ深いところの声にはなかなか触れられない。このラボなら、そういったものに常に触れながらみんなで対応を考えられる。『こうしてみようか』とアイデアが出たらすぐに試せて評価できる。Pepperも同じですよね。Pepperに対して人がどんな感情を抱き反応するか、どう動くかを可視化して、それにすぐ応える(開発の)しくみを作りたい。その意味でラボに参加させてもらえて非常にいいご縁だなと思っています」(岡村氏)
「病院にロボットがいること自体が、まだ例が少ないですよね。見た人がどんな反応をするか、どんな触れ方をするのかといった、ロボットに対する人の行動をまず見て分析する必要がある。そのために側にカメラを設置し、音声も録音できるようにしています」(高尾准教授)
「現在のロボットの機能だけ見て、すぐ医療に活用しようとしても可能性を狭めるだけのような気がしています。そもそもこれからもっと高機能化するものだし、ナレッジの蓄積もこれから。まずはロボットと人のコミュニケーションのありようについて、観察から始めることが重要なのではないかと思っています。特に、病院ですからね」(畑中氏)
医療機関と企業の関係を対等に、それが病院と患者の関係も良くする
そのほかにも、患者用のFreeWi-Fiや職員用のWi-Fiは導入済ですし、会計スマホシステムや、翻訳システムも予定よりも早めに稼働開始の予定。
「始まったばかりで過渡期ですから、解決すべき問題はたくさんあると思っています。ただ何をするにも、きちんと実証してエビデンスが出せる場がなければいけない。私は行政にもいたので(2014年から1年間厚労省医政局に出向)、そういう場でいろいろと試し、適切な運用のためのガイドラインを作って普及させる一連の流れを、一つひとつやっていくことが重要だと思っています。行政と大学だからやれることがありますし、そのための『攻める場』はここだと思っていますよ」(高尾准教授)
先端医療情報技術研究講座のWebサイトには、今年度と来年度を中心に11ものICTシステムを構築すると明記されている。多くの企業と同時並行で研究を進める方針とのことで、このラボが早期に病院の次世代医療ICTのモデルを提示することが期待できそうだ。
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・東京慈恵会医科大学 プレスリリース