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がん細胞の免疫監視回避のメカニズム解明-北大ほか

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2016年05月27日 AM06:00

33種類のがん種含む1万例超のゲノム解析データ解析

北海道大学は5月24日、33種類の主要ながん種を含む1万例を超えるがん試料のゲノム解析データについて、スーパーコンピュータを用いた大規模な遺伝子解析を通じて、がん細胞が免疫監視を回避する新たなメカニズムを解明することに成功したと発表した。この研究は、京都大学大学院医学研究科腫瘍生物学の小川誠司教授ら、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの宮野悟教授ら、北海道大学大学院医学研究科免疫学の瀬谷司特任教授らを中心とする研究チームによるもの。研究成果は英国科学誌「Nature」オンライン版に5月23日付けで掲載されている。


画像はリリースより

生体には、本来、細胞ががん化した際にこれを排除する免疫のしくみが備わっていることが以前から知られており、その仕組みの破綻ががんの発症に大変重要な役割を担っていることが、近年の精力的な研究によって明らかにされつつある。これらの研究から、がん細胞は、しばしば「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子を活性化することによって、免疫システムの監視から巧妙に逃れていると考えられている。

このことは、代表的な免疫チェックポイント分子であるPD-1やPD-L1といった分子を標的として最近開発された阻害抗体が、様々ながん種において、顕著な臨床効果を示すことによっても支持されるが、がん細胞がどのようにしてこの免疫チェックポイント分子を活性化するのかについては、十分理解されていない。また、極めて高額な医療費が必要とされる免疫チェックポイント阻害抗体を用いた治療については、その治療効果を正確に予測し効果の期待される症例に選択的に治療を行うためのバイオマーカーの開発が望まれているが、まだ見出されていないのが現状だ。

研究グループは、米国のがんゲノムアトラス(TCGA)に登録されている、33種類の悪性腫瘍からなる1万210例のがん試料のゲノム解析データについて、スーパーコンピュータを用いて大規模な遺伝子解析を実施。肺がん、胃がん、食道がん、大腸がん、腎がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮体がん、 頭頸部がん、悪性黒色腫、B細胞リンパ腫など、主要ながん種の多くで、代表的な免疫チェックポイント分子のひとつであるPD-L1蛋白をコードする遺伝子の異常が生ずる結果、その遺伝子発現が著しく上昇していることを発見した。特に、西南日本を中心として日本国内で多く認められる成人T細胞白血病では、25%という高い頻度でPD-L1のゲノ ムの異常が生じていることが明らかになったとしている。

免疫チェックポイント阻害剤の効果予測の応用に期待

研究グループによると、PD-L1遺伝子の異常は、いずれも「3′非翻訳領域」と呼ばれる、蛋白質に翻訳されない遺伝子の末端部分に生ずる、欠失や部分的な配列の逆転(逆位)、他の遺伝子領域との異常な結合(転座)を含む構造異常で、どの異常においても、正常な「3′非翻訳領域」が失われる結果、PD-L1の遺伝子発現が上昇するという、新しいタイプの遺伝子異常であると考えられることがわかった。この異常は特に、B細胞悪性リンパ腫(8%)と胃がん(2%)で高頻度に認められたとしている。

実際に、がん細胞を含む様々な細胞において、最新のゲノム編集技術を用いてPD-L1 の3′非翻訳領域に欠失や逆位を生じさせることによって、PD-L1の顕著な発現の上昇が生ずることも確認され、3′非翻訳領域を欠失させることによりPD-L1遺伝子の発現を誘導したがん細胞は、免疫による監視を回避して増殖することができるようになることが確認された。一方、この増殖効果は、抗PD-L1抗体によって阻害されたことから、このようなPD-L1遺伝子のゲノム異常を認めるがんでは、免疫チェックポイント阻害剤による治療が有効である可能性が示唆された。

今後研究グループは、異常を有するがんに対して、抗PD-1/ 抗体を用いた免疫チェックポイント阻害が、期待されるような顕著な臨床効果を示すかどうかを臨床試験によって検証することが最も重要な課題だとしている。実際に、顕著な臨床効果が確認された場合には、同異常をバイオマーカーとして用いた分子標的治療が実現する可能性がある。現在、同異常のバイオマーカーとしての意義を検証するために「再発又は難治性の成人 T細胞白血病・リンパ腫に対するニボルマブの第2相医師主導治験(UMIN000020601)」が鹿児島大学を中心として進行中であり、臨床試験の結果に大きな期待が寄せられる。

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