MCI患者ではオプティック・フローに対する脳反応が特異的に低下
九州大学は5月25日、誘発脳波を用いて、軽度認知機能障害の新たな早期診断バイオマーカーを発見したと発表した。この成果は、同大大学院医学研究院の山﨑貴男学術研究員と飛松省三教授らと、九州大学病院物忘れ外来との共同研究よるもの。アルツハイマー病専門誌「Journal of Alzheimer’s Disease」電子版に5月23日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ヒトが直進方向に移動すると、外界の放射状の動きが生じる。これはオプティック・フロー(放射状方向の運動刺激(OF))と呼ばれ、自己運動の知覚に関与し、後部頭頂葉で処理される。アルツハイマー病や軽度認知機能障害 (MCI)では、後部頭頂葉が障害されやすいために、OF知覚が障害され、迷子や危険運転の原因となるという。
研究グループはこれまでに、MCI患者ではOFに対する脳反応が特異的に低下していることを報告していた。今回はその研究を発展させ、OF刺激はMCI患者と健常老年者を高い特異度、高い感度をもって区別できることを新たな患者群で発見したという。
安価かつ信頼性のある早期診断バイオマーカーとして期待
日本では超高齢化の進展に伴い、2025年には高齢者の約5人に1人は認知症になると推定されており、 MCIの早期診断・介入が喫緊の課題である。早期診断バイオマーカーとして、脳脊髄液検査やアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドが脳にたまっているかを検査するアミロイドイメージングが報告されているが、侵襲性やコストの問題が指摘されており、理想的なバイオマーカーは未だ確立されていないのが現状だ。
今回の研究成果から、誘発脳波検査は身体に害を及ぼさない上、安価かつ信頼性のある MCIの早期診断バイオマーカーとなることが期待できる。また、認知症患者の迷子、危険運転が社会問題となっているが、これらはOF知覚の障害と関連があることから、この手法は迷子や危険運転の起こしやすさの判定にも利用できると期待される。
将来的には、MCIよりもさらに早い、臨床症状が出る前の時期で、認知症予備群を発見できるシステムを構築し、先制医療に貢献していきたい、と同研究グループは述べている。
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