日本で増加傾向の「非アルコール性脂肪性肝疾患」
熊本大学は5月24日、お酒に弱いとされる、遺伝的に活性アルデヒドを分解する酵素の働きが低い人は、飲酒習慣がなくても脂肪肝の発症リスクが高いことが、人間ドック受診者を対象とした臨床研究で初めて明らかになったと発表した。この研究は、同大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野の鬼木健太郎助教、同博士課程3年の守田和憲氏らと、日本赤十字社熊本健康管理センターの大竹宏治医師らの共同研究によるもの。研究成果は英国科学誌「Nutrition & Diabetes」に5月23日付で発表された。
アルコールの多飲(習慣的飲酒)は脂肪肝を引き起こすことがよく知られているが、それ以外にも食べ過ぎや運動不足などが原因で肝臓に中性脂肪が溜まり、肝機能障害を引き起こす「非アルコール性脂肪性肝疾患」が、近年の食の欧米化に伴い、日本で増加傾向にある。自覚症状が少ないため見過ごされやすく、肝硬変など進行した状態で発見されることも多いことから、早期発見・予防が重要とされている。
アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)は、アルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドをはじめ、肝障害の原因となる種々の活性アルデヒドを分解する酵素。この酵素の活性が遺伝的に低い人は、飲酒に伴う顔面紅潮や気分不良を引き起こしやすく、飲酒量は減少する。一方、ALDH2の活性が遺伝的に高い人は、多量飲酒によるアルコール性の脂肪肝といった飲酒関連疾患のリスクが高いとされてきた。近年のマウスを用いた研究では、アルコール摂取の有無に関わらずALDH2の働きを活性化させると肝臓への中性脂肪の蓄積が抑えられることがわかり、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症とALDH2遺伝子型の間に関連性があると考えられる。しかしながら、これまでこのような研究報告はなかった。
ALDH2の低活性遺伝子型、脂肪肝罹患率2倍に
今回の研究では、ALDH2遺伝子型が非アルコール性脂肪性肝疾患発症に及ぼす影響について、日本赤十字社熊本健康管理センターの人間ドック受診者のうち、飲酒習慣のある人を除外した341人を対象に検討を実施。その結果、ALDH2の低活性遺伝子型の人では、活性遺伝子型の人に比べて非アルコール性脂肪性肝疾患の罹患率が約2倍高いことが判明した。
さらに、ALDH2の低活性遺伝子型の人は、肝機能検査値γ(ガンマ)-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTもしくはγ-GTP)が25.5IU/Lというそれほど高くない値であっても、脂肪肝の発症リスクが高くなることが示された。これらの結果から、ALDH2の低活性遺伝子型の人に対する脂肪肝予防のためのγ-GTPの継続的なチェックや、生活改善などの積極的介入が望まれるとしている。
今後、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症・進展に関わる他の遺伝子型やその他の因子の影響を明らかにできれば、その早期予測が可能になり、リスクが高い人の早期抽出と積極的な生活改善指導・治療によって、効率的な予防・治療と医療費の削減が期待できる、と研究グループは述べている。
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・熊本大学 プレスリリース