現状は抗原変異の予測誤ることも
東京大学は5月18日、同大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループが、季節性インフルエンザウイルスの抗原変異を高い精度で予測する技術の開発に成功したと発表した。研究成果は、英国科学雑誌「Nature Microbiology」のオンライン速報版に5月23日付けで公開された。
画像はリリースより
季節性インフルエンザに対するワクチンは、その発症や重症化を防ぐ効果があるが、ワクチン製造で使われるウイルス(ワクチン株)と実際に流行したウイルスとの間で、ウイルスの主要抗原であるヘマグルチニン(HA)の抗原性が一致しないと、ワクチンの予防効果が弱まってしまう。そのため、頻繁に抗原変異が起こる季節性ウイルスに対しては、毎年のようにワクチン株を見直す必要がある。
しかし、現在の技術では、抗原変異の予測を誤ることがあり、ワクチンの予防効果が十分に発揮されないことがあり、そのため、季節性ウイルスで起こる抗原性状の変化を高い精度で予測する技術の開発が望まれていた。
より有効なワクチンの製造可能に
研究グループでは、変異をもつインフルエンザウイルスを人工的に作出することができる「リバースジェネティクス法」を世界に先駆けて開発。この手法を用いて、インフルエンザウイルスのHA遺伝子にさまざまな変異(ランダム変異)を導入し、多様な抗原性状を持つウイルス株の集団(ウイルスライブラリー)を人工的に作出した。
そして、季節性ウイルスに対する抗血清を用いて、ウイルスライブラリーからさまざまな抗原変異株を単離し、それらの遺伝子性状および抗原性状を分析することにより、将来起こる季節性ウイルスの抗原変異を、従来よりも高い精度で予測できる技術を開発したとしている。
この研究で開発した予測技術によって、将来流行するウイルスの抗原性状と一致するワクチン株を先回りして準備することが可能、すなわち、実際の流行株とワクチン株との抗原性が一致しないリスクが低減され、より有効なワクチンの製造ができる、と研究グループは述べている。今後はさらに、精度の高い予測技術の開発を進めるとともに、B型インフルエンザウイルスで起こる抗原変異を予測する技術も開発するとしている。
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