クエチアピンによる高血糖軽減させる別の医薬品探索
京都大学は5月23日、米国が公開している医薬品有害事象ビッグデータと、生体分子のシグナル伝達経路や遺伝子発現データベースを組み合わせて解析し、副作用の分子メカニズムを説明する仮説を導き出すとともに、その仮説を動物実験で実証する新しい試みに成功、非定型統合失調症治療薬で起こる高血糖を軽減することができる併用薬としてビタミンDを見出したと発表した。今回の研究は、薬学研究科博士課程の長島卓也氏、金子周司教授らの研究グループによるもの。研究成果は英科学誌「Scientific Reports」に5月20日付けで掲載された。
画像はリリースより
医薬品は薬効のほかにも有害な副作用があり、こうした臨床で起こった有害事象は、何百万件ものビッグデータとして蓄積され、公開されている。研究グループは、このビッグデータから特定の有害事象を軽減する別の併用医薬品を見出し、その作用を動物実験で実証するとともに、さらに別のデータベースを用いて有害事象の分子メカニズム候補をあぶり出し、その仮説を再び動物や細胞を用いた実験で証明するという新しい研究手法に挑戦した。
研究グループは、世界で最も大きな有害事象データベースである米国のFAERSのビッグデータから、非定型統合失調症治療薬であるクエチアピンによる高血糖を軽減させる別の医薬品を繰り返し計算によって探索し、最も有力な候補としてビタミンDを見出した。実際、マウスを用いた動物実験において活性ビタミンD誘導体は、クエチアピンによる高血糖を軽減させ、その高血糖がインスリン抵抗性に基づくものであることが明らかになったとしている。
有害事象の分子メカニズム解明し、臨床応用に期待
研究グループは次に、生体シグナル伝達マップにおいてインスリン抵抗性に関与する生体分子の中から、遺伝子発現データベースにおいてクエチアピン投与によって発現変動が起こる遺伝子を絞り込んだ。ホスファチジルイノシトール三リン酸キナーゼ(PI3K)が共通する作用点の候補分子として浮かび上がり、このPI3Kのクエチアピンによる発現低下は動物実験でもビタミンD併用によって上昇に転ずること、さらに骨格筋細胞を用いてクエチアピンが引き起こすインスリン抵抗性がビタミンDによってPI3K系を活性化すると改善することを実証した。
これらの結果から、クエチアピン投与がもたらすインスリン抵抗性と高血糖は、サプリメントとしても用いられるほど安全性の高いビタミンDの併用によって改善できることが期待されるとしている。
こうした医薬品有害事象のビッグデータと、生体遺伝子の発現や代謝データベースを組み合わせて仮説を導き出し、動物実験で実証する研究は世界でも新しい試みであり、すでに市販されている医薬品のリポジショニング(異なる適応症への新たな展開)による有害事象の軽減や回避のための具体的方策を提案できる可能性が高まった。
同手法をさまざまな疾患領域の医薬品に対しても応用し、ほとんど不明な有害事象の分子メカニズムの解明に努力し、実際の臨床応用に結びつけていきたい、と研究グループは述べている。
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