15,672人の平均16年間の追跡データから発症確率予測モデルを開発
国立がん研究センターは5月23日、多目的コホート(JPCH)研究から、健診成績に基づく心筋梗塞および脳梗塞の発症確立予測モデルを開発したと発表した。研究成果は「Circulation Journal」にWeb先行公開され、5月25日出版のvol.80に掲載予定。
画像はリリースより
心筋梗塞や脳梗塞の原因には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などがある。こうしたリスク因子の組み合わせから、その人が将来、心筋梗塞(冠動脈疾患)あるいは脳梗塞をどのくらいの確率で発症するかを調べる予測モデル(推定式)の開発が世界各地で進められている。
心筋梗塞については日本でも一都市住民での予測モデルなどが存在しているが、開発された予測モデルを別の集団に適用できるかどうかという外的妥当性の検証は今まで行われてきていなかった。JPHC研究は、全国複数の地域住民に対して標準化された方法でベースライン調査を実施し、その後の疾患発症の悉皆的な追跡調査を行ってきていることが特長で、ベースライン調査の時期が異なる2つの集団(コホート1とコホート2)を調査対象としている。
多目的コホート研究では、平成2年(1990年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部(以上、コホート1)、平成5年(1993年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古(以上、コホート2)の9保健所管内の住人15,672人へアンケート調査への回答と血液の提供を受け、その後、心筋梗塞や脳卒中の発症状況について追跡調査を実施してきた。
性別、年齢、喫煙、降圧薬の有無などを必要十分な変数として選択
今回、コホート2参加者で解析に必要なデータの揃った15,672人の平均16年間の追跡データを用いて、研究開始時の健診成績・生活習慣からその後10年間の心筋梗塞および脳梗塞の発症確率予測モデルを開発。平均約16年の追跡期間中に観察された192例の心筋梗塞と552例の脳梗塞発症について、研究開始時の健診成績や生活習慣の組み合わせから、統計学的な方法でリスク予測に有用な変数を選択した。
その結果、性別、年齢、現在喫煙、降圧薬の有無、収縮期血圧、糖尿病の有無、HDLコレステロール値、non-HDLコレステロール値の8つの変数が心筋梗塞発症予測に必要十分な変数として選択された。これらのうち、脳梗塞の発症予測に関係する変数はnon-HDLコレステロールが含まれないこと以外は心筋梗塞とほぼ共通していた。また、作成した予測モデルの性能は十分高く、日本人の一般集団に対して適用することも可能であることが確認されたという。
リスクは、ウェブサイト「循環器疾患リスクチェック」上で計算できる。自身の健診結果から心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを予測して利用し、禁煙あるいはタバコを吸わないといった行動の変化や、血圧・脂質・血糖値などの検査成績改善の効果を実感したり、シミュレーションして生活習慣の変容を通した心血管疾患予防に役立てることができるという。
国がんは、今後このリスクモデルを活用した健康づくりや予防医療の推進を望むとともに、リスクの低減のため、より健康的な生活習慣の維持やその他の健診結果の改善・悪化の防止を心がけてほしい、と述べている。
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