■岩手医大病院・佐藤氏が報告
日本病院薬剤師会東北ブロック第6回学術大会が21、22の両日に郡山市内で開かれ、癌の化学療法で薬学的介入を行った経済効果が、佐藤淳也氏(岩手医科大学病院薬剤部)から報告された。副作用の可能性から抗癌剤の投与量に関する疑義照会が行われ、処方変更されたケースが約3割あったと指摘。薬剤師が疑義照会を行うことにより、好中球減少の副作用による緊急入院を回避できたと仮定した場合、年間約1000万円の医療費削減につながる可能性があるとした。佐藤氏は「疑義照会を怠った場合のコストは大きい」と述べ、「薬剤師も介入の経済評価を検証していく必要があるのではないか」とコスト意識の重要性を強調した。
癌の化学療法では、副作用の発生が避けられず、薬剤師の介入が重要とされているが、薬学的介入を経済的指標で分析した研究は少ないのが現状。そこで、癌専門薬剤師でもある佐藤氏は、重篤な副作用を回避する疑義照会や支持療法の提案など、薬学的介入による経済効果を検討した。
薬剤師が医療経済的に貢献する重要な役割の一つに重篤な副作用を回避する疑義照会がある。同院の化学療法室における疑義照会の内容を調べたところ、抗癌剤の処方への疑義照会で変更されたケースのうち、投与量に関するものが29%と最も多く、次いで規定の支持療法がないものが16%だった。
佐藤氏は、仮に好中球減少が見られながら薬剤師が疑義照会を怠り、誤った医療行為が行われた場合のコストを試算した。一般的にDPC病院で好中球減少による緊急入院を5日間した場合、1件当たりの医療費は約20万円。これに薬剤師による疑義照会が年50件あったことを踏まえると、年間約1000万円程度のコスト削減につながる可能性が考えられた。
佐藤氏は、「薬剤師が疑義照会を怠った場合に、発生する可能性のある医療コストは非常に大きいことを考えるべき」と強調。薬剤師は、副作用による患者のQOL低下を防ぎ、薬学的介入により向上させる活動が重要としつつ、経済評価の検証も必要と訴えた。
また、外来化学療法で最も問題となる副作用は、発熱性好中球減少症の感染症。特にエピルビシン、シクロホスファミド、フルオロウラシル(5-FU)を併用した乳癌の「FEC100療法」では、患者の9割以上が重症の好中球減少症を発症するとされる。
そこで佐藤氏は、同療法を安全に外来導入するため、レボフロキサシンを予防処方し、発熱時に服用してもらう取り組みを実施した結果、患者の98%がレボフロキサシンを服用し、93%が解熱に成功した。
経口抗菌薬の予防処方は、ガイドラインでは患者がリスク判断をできないため好ましくないとされているが、佐藤氏は「発熱時の電話サポートや薬剤師の服薬指導を徹底することにより、重篤な好中球減少を予防できた。これは薬剤師による薬学的介入の効果にほかならない」と話した。
一方、宮崎瑞穂氏(前橋赤十字病院名誉院長)は、病院経営の立場から言及。同院では、病棟薬剤業務実施加算(100点)の算定により、約3000万円の増収につながったとし、これにより薬剤師5人の増員を実現したことを紹介。「5人の増員により、医療安全と質向上、医師の負担軽減につながった」とメリットを述べた。
さらに、医薬品の適正使用推進による経済効果も指摘。具体例として、アルブミン製剤の使用量減少により、4年間で約3000万円のコスト削減につながったほか、後発品の使用促進によって、2013年の1年間で約2億円以上の薬剤費削減効果があったことなどを例示。その上で、「薬剤師は医薬品を通じて医療の質向上と病院経営に貢献できるキーパーソン」と強調。特に病院幹部の薬剤師に対し、経営についての専門教育を受けることが望まれるとした。