毎年約2万人が発症する妊娠高血圧腎症
東北大学は5月18日、ヒトの妊娠高血圧腎症を忠実に再現できる動物モデルを確立したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科高橋信行准教授らの研究グループによるもの。研究成果は米科学誌「PLOS ONE」に5月17日付けで掲載されている。
画像はリリースより
かつては妊娠中毒症ともよばれた妊娠高血圧腎症は、妊娠にともなって高血圧をきたす尿蛋白を伴う疾患。国内では毎年約2万人が発症し、脳出血などによる母体死亡、胎児死亡、未熟児発生をもたらす。その主因は、胎盤の血流不足による血管内皮障害と考えられているが、詳細は不明である。
治療に使われる降圧薬も胎児奇形の危険などの理由により、妊婦に禁忌となるものが多く、投与が可能な降圧薬でも、血管内皮障害を改善しないため、降圧により胎児血流がさらに減少し、胎児の生命に危険が及ぶことがあり、出産による妊娠の中断が必要となることも少なくない。
子宮に至る動静脈を糸でしばり、血流を適度に減少
妊娠高血圧腎症の病態が不明であり、有効な薬物療法が確立していない理由として、ヒトの妊娠高血圧腎症を再現できる動物モデルがなかったことが挙げられる。そのために研究の進展が遅いと考えられる。
そこで研究グループは、ヒトの妊娠高血圧腎症に特徴的な病態を忠実に再現できるマウスモデルを作成に着手。妊娠中期から後期に子宮に至る動静脈をナイロン糸とともに縫合糸でしばり、その後、ナイロン糸を取り除いて、血流を適度に減少させることにより、ヒトの妊娠高血圧腎症に特徴的な高血圧、蛋白尿、流産早産、及び胎児低体重、血管内皮障害を忠実に再現できるマウスモデルを作成することに成功した。
また、今回の研究では、胎児の生存・発育には、子宮への血流が重要であり、子宮動静脈の血流改善を指標として、妊娠高血圧腎症における流産・早産、胎児発育不全を改善する新たな手段の開発が可能であることが確認された。このモデル動物を利用することで、疾患原因を明らかにし、その新たな予防法や治療法の開発が進んでいくことが期待される。
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・東北大学 プレスリリース