EGFR-TKI薬剤耐性獲得患者の新たな治療選択肢
アストラゼネカ株式会社は5月16日、同社が3月に製造販売承認を取得した新規分子標的薬「タグリッソ(R)錠」(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)に関する記者発表会「~肺がん個別化医療を新たなステージに導く薬剤耐性獲得後の治療選択肢の登場~」を開催。国立がん研究センター中央病院副院長で呼吸器内科呼吸器内科長の大江裕一郎氏が講演した。
国立がん研究センター中央病院 大江裕一郎副院長
タグリッソは、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に抵抗性のEGFR T790M 変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺がん(NSCLC)を効果・効能とする世界初の抗がん剤。既存のEGFR-TKIとは異なる作用機序を有し、EGFR-TKI治療耐性に関連するT790M遺伝子変異陽性EGFRチロシンキナーゼを不可逆的に阻害することから、EGFR-TKI薬剤耐性獲得患者の新たな治療選択肢となることが期待されている。日本国内においては、3月28日に製造販売承認を取得している。
既存のEGFR-TKIは、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対して有効な治療法であるが、その多くが治療開始から1年ほどで薬剤耐性が生じ、病勢が進行するという問題をはらんでいる。この問題を解決するために開発されたのがタグリッソだという。「タグリッソは、T790Mを持つ細胞に対してはもちろん、活性型変異を持つ細胞にも結合できる。その一方で副作用を減らすために野生型のEGFRには結合しないようにデザインされた物質を目指して開発された」と大江氏は語った。
先行する第一世代(ゲフィチニブ、エルロチニブ)、第二世代(アファチニブ)のEGFR-TKIについて、大江氏は「第一世代では、感受性変異がある場合、非常に強く活性を抑えるがT790M変異があるとまったく抑えられず、野生型も少し抑えてしまう。第二世代は、T790M変異がある場合も多少は抑えるが、それほど強くは抑えられない。逆に野生型への結合活性を比較的強く抑えてしまうので、T790Mを抑えるところまで血中濃度を高められないという問題がある」という。対する第三世代のタグリッソは「感受性変異、T790 Mともに非常に強く抑え、なおかつ野生型はあまり抑えないという特徴がある薬」と評した。
大江氏「従来のEGFR阻害薬に比べて副作用は軽度と予想されるが、注意は必要」
同剤の臨床開発では、AURA試験(第1相、2相試験)とAURA2試験(第2相試験)という臨床試験が実施された。うちAURA試験の第2相とAIRA2試験には、日本から計81例が参加。これは、世界で最多の参加数だという。この統合解析について、大江氏は、「全症例の奏効率が66.1%だったのに対し、日本人患者では63.2%、PFSについては共に9.7か月と、PFSに関しては日本人と全体であまり差はないことになる」と語った。ただし副作用に関しては「日本人は若干強い傾向にある」と大江氏。全副作用は全症例で86.4%、日本人患者で93.8%。グレード3以上の頻度も全症例と比べると多かった。「実際に差があるのか、日本人患者のほうが、前治療がヘビーだったことが影響しているのかわからない。全症例、日本人患者ともに重篤な副作用はそれほど多くなく、従来のEGFR-TKIに比べて副作用は軽度と予想されるが、注意は必要」(大江氏)
EGFR-TKIで最も注意しなければならない副作用の1つは間質性肺炎だが、先の臨床試験でもその発現が確認されている。その発現率は、全症例で2.7%だったのに対し、日本人患者では6.3%と、他の副作用と同じくやや多い傾向にある。「理由はわからないが、EGFR-TKIに限らず多くの薬で、日本人は間質性肺炎を起こしやすいという傾向があるので注意が必要」と大江氏。「タグリッソの添付文書の警告欄には、間質性肺炎がしっかりと記載されている。また、患者さん向けの服薬手帳や説明資材、注意喚起カードもあるので、何かあったらすぐに連絡するよう、患者さんに周知し、安全対策をしながら使わなくてはならない」と語った。
現在、非小細胞肺がんに関するNCCNのガイドライン(Version 4.2016)では、再発例の治療においてT790M変異がある場合、タグリッソが強く推奨されている。「日本においても今年中にはガイドラインが書き換えられ、これに近い推奨になるのではないか」と大江氏。また、初回治療の第3相試験(FLAURA試験(ゲフィチニブ/エルロチニブとの比較))と術後補助療法の第3相試験(ADAURA試験)も進行中であり、今後の適応拡大が期待されている。