肺動脈に器質化血栓、肺動脈へかかる圧が上昇する「肺高血圧症」の一種
東北大学は5月9日、国の指定難病の「慢性血栓塞栓性肺高血圧症」の病因タンパク質としてトロンビン活性化型線溶阻害因子(TAFI)を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授の研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓協会(AHA)の学会誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」誌の電子版に4月21日付けで掲載されている。
画像はリリースより
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、肺動脈に器質化血栓が生じることで血液が流れにくくなり、肺動脈へかかる圧が上昇する「肺高血圧症」と呼ばれる状態になる疾患。致死的でありながら、息切れなどの非特異的な症状しかなく見逃されている。
肺動脈内の血栓は、血栓を溶解・分解する線溶系の作用により除去されることが一般的だが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症では肺動脈内に血栓が形成されても溶解されずに残存、器質化するが、その原因は不明だった。
線溶系を抑制するタンパク質「TAFI」が血漿中・血小板中で著しく増加
今回、研究グループは、血漿中及び血小板中に存在し、血栓を溶解・分解する線溶系を抑制するタンパク質であるTAFI(Thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)に着目。慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者では、この線溶系が低下していることを示したという。さらに、血漿中及び血小板中のTAFIが著しく増加しており、 慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の線溶系の低下の原因であることも明らかにした。
TAFIの増加は慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の治療後も継続しており、TAFIの抗原量を増加させる一塩基多型(SNPs)が確認されたことから、TAFIが慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者の病因タンパク質である可能性が示された。また、TAFIの活性阻害薬を用いると、慢性血栓塞栓性肺高血圧症で認められた線溶系の低下が改善したという。
今回の研究成果は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症の病因タンパク質を世界で初めて明らかにしたきわめて重要な報告だ。非特異的な症状しかなく診断が困難な慢性血栓塞栓性肺高血圧症において、新たな診断法や治療薬の開発へつながることが期待される。
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