コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系により高品質な抗原を作製
横浜市立大学は4月26日、同大大学院医学研究科の梁明秀教授を中心とした共同研究グループが、MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスを短時間で簡易に、かつ正確に検出できるイムノクロマトキットの開発に成功したことを発表した。この研究成果は「Frontiers in Microbiology」オンライン版に4月20日付けで掲載されている。
画像はリリースより
MERSコロナウイルスは、2012年にサウジアラビアで同定された重症の呼吸器疾患を引き起こす新型のコロナウイルスで、致死率が約36%と非常に高いことがWHOから報告されている。これまでに世界で1,600人を超える症例があり、2015年には韓国で大流行が見られた。現在、韓国国内での流行は収束しているが、サウジアラビア等の中東地域では依然として感染者の発生が続いており、日本への感染流入のリスクは続いている。
MERSコロナウイルスに対する抗ウイルス薬や感染予防のためのワクチンは未だ存在していないため、ウイルスを素早く特定し、迅速に対応することがウイルスの蔓延を防ぐためには非常に重要となる。しかし、これまでMERSコロナウイルスの検出には遺伝子検出法が採用されており、遺伝子を取り扱うことのできる熟練した技術と特別な装置が必要なことに加え、検出までに要する時間が長い事が問題となっていた。
また、MERSコロナウイルスは、風邪の原因となる病原性の低いウイルスや、2002年頃に流行が見られたSARS(重症急性呼吸器症候群)と同じコロナウイルス属に分類され、これらとは遺伝子的に類似した部分が存在している一方、MERSコロナウイルスは遺伝子的に変異しやすいウイルスであることも知られている。こうした理由から、MERSコロナウイルスを誰でも簡単な操作で短時間に、かつ正確に検出できるキットの開発が求められていた。
試験研究用試薬としての実用化を目指す
研究グループは、MERSコロナウイルスを構成するタンパク質を、梁教授の保有技術であるコムギ胚芽無細胞系を応用した病原体タンパク質合成法で大量に調製し、これを免疫原とすることでMERSコロナウイルスを検出できるマウスモノクローナル抗体を新たに開発。この抗体の認識する部位は、遺伝子型が異なるMERSコロナウイルスにおいても保存されており、MERSコロナウイルスを網羅的に検出できる優れた特性を有することが示唆された一方で、この認識部位は近縁のウイルスとは類似性が非常に低く、実際に同抗体は他のウイルスとは全く反応せず、MERSコロナウイルスとのみ反応することが明らかになったという。
この抗体を関東化学株式会社の試薬キット化技術と組み合わせることで、MERSコロナウイルスを簡単・迅速に検出できるキットの開発に成功。検出キットはイムノクロマト法であり、遺伝子検出法と比べ、特別な装置を必要とせず、簡単な操作で短時間にウイルスを検出することが可能となった。また、国立感染症研究所の協力を得て、実際にMERSコロナウイルスを約15分で目視検出できることを確認したという。
研究グループは今後、信頼性の高い結果が得られるよう検出キットを最適化し、試験研究用試薬としての実用化を目指す。また、さまざまな新興・再興感染症に分類されるウイルスなどの検出キットも創出し、ウイルスへの備えを進めていきたいとしている。
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