将来の疲労の程度を予測する脳のメカニズムを解明
大阪市立大学は4月26日、将来の疲労の程度を予測する脳のメカニズムを発見し、このメカニズムが疲労の病態に深く関わっている可能性を明らかにしたと発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大医学研究科・石井聡病院講師、田中雅彰講師、渡辺恭良名誉教授(理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター長)らのグループと、理研ライフサイエンス技術基盤研究センターとの共同研究によるもの。研究成果は英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に4月26日付けで掲載されている。
2004年に文部科学省疲労研究班が成人男女2,742名を対象にした調査では、約40%の人が6か月以上続く慢性的な疲労に悩んでいることが明らかになっている。慢性的な疲労に悩む半数近くが疲労による作業効率の低下を訴えており、経済的損失という観点からも、疲労は大きな社会問題となっている。
日本疲労学会は「疲労は過度の肉体的・精神的活動あるいは疾病により活動能力が低下した状態であり、疲労に伴う特有の感覚が疲労感である」と定義。疲労感にはバイオアラームとしての重要な側面があり、疲労感が休憩を促すシグナルとして働くことで、生体の恒常性が破綻するのを防いでいる。健康な日常生活を送るには、割り当てられた課題を一定期間内に遂行させることだけでなく、活動量を低下させて過労を防ぐことを両立させることが重要だ。そのためには、将来の疲労の程度を適切に予測し、その予測にしたがって活動レベルを調整することが必要となる。
疲労の慢性化を防ぐ新たな対処法の開発進展に期待も
研究グループは、慢性的な疲労へ進展しないための適切な対処法策を開発する上で、将来の疲労レベルを予測する脳のメカニズムを解明することが重要ではないかと考察。健康な男性16名(平均年齢21.9歳)を対象に、1時間後の疲労の程度を予測する課題と、現時点での疲労の程度を自己評価する課題を実施し、疲労の程度の予測および自己評価に関する脳の活動を脳磁図により測定。その結果、右大脳半球の縁上回、背外側前頭前野、前頭極などの脳部位が疲労の予測に関わっていること、さらに、日常疲労の程度が高い人ほど背外側前頭前野がより強く活動していることが明らかになったという。
慢性疲労症候群では、右側の背外側前頭前野(9野)の体積が健常者に比較して減少している事が報告されている。今回の研究からは因果関係を明らかにすることはできないものの、疲労の程度の強い者に観察された背外側前頭前野の強い活動が同部位の障害をもたらす可能性を考えることができる。今後の研究によって、疲労の予測に関わる右側の背外側前頭前野の強い活動と疲労増悪の因果関係を明らかにすることができれば、将来的には疲労の慢性化を防ぐ新たな対処法の開発が進むことが期待される。
▼関連リンク
・大阪市立大学 プレスリリース