■パスカル薬局・横井氏ら
医師が院外処方箋に記載する処方薬の変更不可指定によって、2014年度に日本全体で推計約4800億円の経済的機会損失があったことを、横井正之氏(パスカル薬局)らの研究グループがカナダの電子版学術雑誌「Canadian Open Public Health Journal」で発表した。パスカル薬局が応需した1年分の院外処方箋を解析し、最も安価な後発品に変更できないことによる機会損失額を推計した。
横井氏らは、パスカル薬局が14年度に130医療機関から応需した7353枚の院外処方箋を解析した。このうち変更不可指定の記載があったのは772枚(10.5%)だった。院外処方箋に記載された医薬品数の累計は2万2559品目。そのうち2531品目(11.2%)が変更不可に指定された。このうち687品目については、代替可能な後発品が存在しないにもかかわらず、変更不可と記載されていた。
院外処方箋1枚あたりの費用は平均7536円。変更不可指定医薬品が最も安価な後発品に置き換わったと仮定した場合、1枚あたりの費用は平均4728円になる。差し引きすると、変更不可指定による院外処方箋1枚あたりの経済的機会損失額は2808円になった。この損失額は、院外処方箋1枚あたりの薬剤料の52.5%に相当していた。パスカル薬局単体では14年度の1年間で約217万円の経済的機会損失があった。
日本全体の14年度1年間の院外処方箋総枚数は8億8310万枚。変更不可指定の記載があった院外処方箋の割合は19.3%だった。これらの数字から、変更不可指定によって最も安価な後発品に変更できないことによる日本全体の機会損失額を算出すると、その金額は約4800億円に達すると推計できたという。
横井氏は「このような解析が論文化されたことはこれまでなかったと思う。推計値とはいえ、数千億円規模の機会損失が存在することはまず間違いない」と述べた。不必要な変更不可指定の解消は、後発品の使用促進に役立つことを示唆している。
16年度の診療報酬改定で、後発品の銘柄を指定し、変更不可にする場合にはその理由を処方箋に記載する義務が医師に課せられたが、先発品を変更不可にする場合には理由を記載する必要はない。しかし、経済的機会損失額の大きさから横井氏は「先発品についても変更不可にする明確な理由を処方箋に記載するのは、医師の義務であり責任ではないか」と投げかけている。