引っ掻きなどによる皮膚バリア障害、アレルギーマーチの進展に重大な影響
順天堂大学は4月27日、ダニ、花粉などの抗原に含有されるタンパク質分解活性(プロテアーゼ活性)と、引っ掻きなどによる機械的な皮膚バリア障害の組み合わせが、アレルギー感作と皮膚炎症を悪化させ、喘息などのアレルギーマーチの進展に重大な影響を及ぼすことを明らかにする研究結果を発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大大学院医学研究科・アトピー疾患研究センターの高井敏朗准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国研究皮膚科学会発行の科学雑誌「Journal of Investigative Dermatology」オンライン版で公開されている。
激しい掻痒を伴い、増悪・寛解を繰り返すアトピー性皮膚炎は、喘息や食物アレルギーなどの起点にもなり、「アレルギーマーチ」と呼ばれる状態に発展することが知られている。これらの予防や治療に、保湿による皮膚バリア機能の保持の重要性は認識されているが、アレルゲンによる皮膚を介した刺激・感作の現場で何が起きているのか未解明な部分が多かった。
呼吸器を介した吸入感作とは異なる新たなメカニズム
通常生活におけるアレルゲンであるダニ、花粉、カビなどにはタンパク質分解酵素が含有されているが、これまで多くの実験モデルでは酵素活性を持たない卵白アルブミンを抗原とした解析が行われていた。そこで、研究グループは、実際の環境下で何が起こっているのかを明らかにするため、プロテアーゼ活性をもつ抗原を使用して、アレルギー感作能や皮膚炎症誘導能を調査したという。
同研究グループはまず、ダニ主要アレルゲンと構造が類似したパパイヤ由来のプロテアーゼ(パパイン)をモデル抗原として選択。これをマウスの皮膚に塗布すると皮膚炎症とIgE産生が誘導されることがわかった。次に、患者における現実の状況を想定し、マウスの皮膚にセロハンテープを貼ってはがす操作のテープストリッピングにより引っ掻きを模し、プロテアーゼ抗原を塗布した。すると、皮膚炎症とIgE産生が劇的に増強して誘導されることが判明したという。この反応は抗原のプロテアーゼ活性を阻害すると消失したことから、抗原の構造ではなくプロテアーゼ活性が原因であることが証明された。
一方、呼吸器を介したアレルゲン感作に重要なサイトカインであるインターロイキン33の遺伝子欠損マウスを用いてもプロテアーゼ抗原に対する経皮感作への影響はまったく見られなかった。つまり呼吸器を介した吸入感作とは異なる新たなメカニズムによるものであることが明らかになったという。
これらの成果は、経皮感作におけるアレルゲンに含有されるプロテアーゼ活性の重要性を明らかにし、環境下の状態に即した予防・治療標的を示した点に意義があるという。 今後、研究グループはアレルゲンのプロテアーゼ活性の阻止やさまざまな要因による皮膚バリア障害の下流の経路などを標的とし、新しい予防・治療戦略の策定に向けて研究を進めるとしている。
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