アクチン重合定量化システムによるスクリーニングで発見
岡山大学は4月21日、既存薬再開発を利用したスクリーニングにより、抗うつ薬のひとつに悪性脳腫瘍の治療効果の可能性がある事実を見いだすことに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科(医)細胞生理学分野の道上宏之助教、松井秀樹教授、岡山大学病院林桂一郎非常勤講師ら研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に3月2日付けで掲載されている。
悪性脳腫瘍(膠芽腫)は、外科治療・放射線治療・化学療法の集学的治療を用いても中央生存期間が約1年程度、5年生存率が数%と極めて予後不良で、根本的治療のない疾患。その原因として、脳腫瘍と正常脳にはっきりとした境界がなく、正常脳組織内へ腫瘍細胞が浸潤増殖することにある。また、他の臓器のがん治療で使用されている抗がん剤は、脳に存在する血液脳関門により脳内へと到達できないため、脳腫瘍治療への応用が困難となっている。
現在、新薬剤の開発には、薬剤の必要性と医薬品開発の困難さの溝を埋めるひとつとして、既存薬を別の効能として用いるDR(Drug Repositioning/Drug Reprofiling:既存薬再開発)がある。DRは、短期間・低予算で副作用の少ない新しい治療薬を創生する手法(第二医薬用途)で、消炎鎮痛剤であるアスピリンに、抗血小板機能があることが報告され、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの治療薬としても使用されている例がある。
岡山大病院との協同で臨床試験を進める予定
研究グループはこれまでに、アクチンタンパク質の重合を試験管内で定量化する方法(アクチン重合定量化システム)を確立し、特許を取得している。今回は、このアクチン重合定量化システムを用いて、DRに基づく臨床利用薬剤の中で重合を高効率に阻害する薬剤のスクリーニングを行った。
悪性脳腫瘍をターゲットとすることを考え、脳への集積性の高い抗うつ薬や抗精神病薬、抗けいれん薬、抗不安薬等の薬剤を最初の候補として使用したところ、抗うつ薬のひとつが、非常に強いアクチン重合阻害機能を持つことを発見。悪性脳腫瘍細胞を用いた実験により、浸潤抑制効果が確認できたという。脳腫瘍モデル動物への薬剤投与実験でも安全性を再評価し、更に浸潤抑制効果と生存期間の延長も発見。薬剤投与量は、抗うつ薬としての本来の使用量と同等量での効果が確認された。また、分子生物学的には、細胞浸潤に関わるFAK(Focal Adhesion Kinase)と呼ばれるリン酸化酵素の働きを強く抑制するメカニズムも明らかになった。
研究グループは今後、更に細胞レベル・動物モデルレベルでの実験を重ね、岡山大学病院脳神経外科と協同して臨床試験を進める予定。
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・岡山大学 プレスリリース