脾臓と接続する神経回路の異常で免疫機能が低下
科学技術振興機構(JST)は4月19日、脊髄損傷後に起こる免疫機能の低下が、免疫を制御する神経回路の異常な活動により引き起こされることを発見したと発表した。この研究は、JSTさきがけ研究者であるシンシナティ小児病院医療センター発生生物学部門の上野将紀客員研究員、シンシナティ小児病院の吉田富准教授、オハイオ州立大学のフィリップ・ポポビッチ教授ら研究グループによるもの。研究成果は「Nature Neuroscience」オンライン版に4月18日付けで掲載されている。
画像はリリースより
外傷や血管障害で脳や脊髄が損傷すると、運動や感覚・認知機能が阻害され、生活の質を大きく低下させる。一方で、生命自体を脅かすものとして、感染症が脳や脊髄の損傷後の死亡要因の第1位であり、免疫機能の低下によるものと考えられている。しかし、なぜ脳や脊髄の障害で免疫機能が低下するのか、その原因はいまだに不明であり、根本的な治療法や予防法がないのが現状だ。
共同研究者であるポポビッチ教授の研究グループは2013年に、マウスの脊髄を損傷させると、自律神経過反射の発症に伴って、免疫機能が低下することを明らかにしている。免疫機能の低下は、免疫器官である脾臓の重度の萎縮と免疫細胞の減少により引き起こされており、交感神経系の最終神経伝達物質であるノルアドレナリンの受容体拮抗薬を投与すると、免疫機能の低下が抑えられたという。このことから、脾臓に接続する交感神経系にも自律神経過反射が起こり、免疫細胞の機能低下を引き起こすという新たな病態メカニズムが示唆され、脊髄障害に伴う免疫力の低下に交感神経が作用している可能性を示したが、神経回路が免疫器官に作用するメカニズムは不明のままだった。
免疫器官を制御する神経回路が代償的に新たな回路網を形成
今回研究グループは、脾臓と接続する交感神経回路に着目。脊髄損傷により1度神経回路が破綻すると、免疫器官を制御する神経回路が、脊髄内で代償的に新たな回路網を形成することを見いだした。さらに、新たな回路網を構成する神経細胞の種類を調べたところ、グルタミン酸作動性の興奮性神経細胞であることが判明。また、新たな回路内でのこれらの神経細胞の活動を遮断すると、免疫機能の低下が回復することも明らかになったという。
これらの研究成果により、神経系と免疫系という別々のシステムの相互作用が明らかになったことから、他の免疫疾患においても神経系との関わりを解き明かす可能性につながると研究グループは述べており、免疫系に対する神経回路の役割を正しく理解し、その活動を効果的に制御できるようになれば、免疫機能の改善を促すための新たな治療法の開発に結びつくことが期待される。
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・科学技術振興機構 プレスリリース