印刷工場従業員がきわめて高頻度で発症している胆管がん
日本医療研究開発機構(AMED)は4月18日、職業性胆管がんの原因物質として強い疑いがある工業用化学物質「ジクロロプロパン」から生じる発がん性候補物質が、肝臓から胆汁中に排泄されることを見出したと発表した。これは、塩素系有機溶剤成分に対する大量ばく露と印刷業における職業性胆管がんの発症とを結びつける重要な発見だという。
画像はリリースより
この研究は、東京大学医学部附属病院薬剤部の豊田優特任助教、高田龍平講師、鈴木洋史教授らの研究グループによって行われたもの。成果は、英科学誌「Scientific Reports」に4月18日付けで掲載されている。
2011年に塩素系有機洗浄剤を大量に使用してきた印刷工場の従業員が、きわめて高頻度で胆管がんを発症していることが報告され、その発症が若い年齢層だったことから社会問題となった。労働環境の調査結果などから、塩素系有機洗浄剤の主成分であったジクロロプロパンという工業用化学物質が原因物質として強く疑われていたが、ジクロロプロパンへの大量ばく露と胆管がん発症とをつなぐ分子機序は未解明だった。
研究グループは、この職業がんが他の臓器ではなく、胆管に特異的な発がんが報告されていたこと、ヒトの身体には本来からだの中に存在しない物質(生体外異物)が体内に入ったときに、それらを肝臓から胆汁に除去する胆汁排泄という仕組みが備わっていることに着目。胆管を作る細胞は血液だけでなく胆汁にも接するため、ジクロロプロパンに由来して胆汁排泄される物質が胆管がんリスクに関与しているとの考えのもと、研究を進めたという。
胆管がんの発症、増悪メカニズムの解明につながるか
その結果、質量分析装置を駆使した胆汁の網羅的成分分析や肝臓の大部分がヒト肝細胞に置換されたマウスを用いた実験などから、ジクロロプロパンから生じた発がん性候補物質が胆汁排泄されることを見出した。さらに、ABCC2(ATP-binding cassette(ABC)transporter, subfamily C, member 2)トランスポーターを過剰に発現する細胞から調製した細胞膜小胞を用いた実験の結果、ABCC2がグルタチオン結合ジクロロプロパンを運ぶことが示された。これらの結果から、生体におけるグルタチオン結合ジクロロプロパンの胆汁排泄の大部分がABCC2によることが明らかになったという。
最後に、これらの発見がヒトの場合にも当てはまりうるかどうかを調べるため、ヒト肝細胞キメラマウスを用いた実験を行った結果、ジクロロプロパンに由来する同様の代謝物が、胆汁排泄されていることが明らかになった。このキメラマウスは、肝臓をつくるマウス肝細胞の大部分が正常なヒト肝細胞に置換されているため、ヒトの身体のなかでも同様の現象が起きていたことが強く示唆されたとしている。
今回の発見によって胆管がんの発がん機序が解明されたわけではないが、肝臓で生じた反応性代謝物が胆汁に排泄されることで、胆管での発がんリスクが高まる可能性を新たに提唱するという点で、将来のがん研究に貢献する重要な成果だと研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース