マウスから腎臓前駆細胞を単離し、最適な培養条件を検索
熊本大学は4月15日、同大発生医学研究所の研究グループの谷川俊祐助教、西中村隆一教授らが、マウス胎仔由来およびヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞を、試験管内で増やす方法を開発したと発表した。同研究成果は、科学雑誌「Cell Reports」オンライン版に4月14日付けで掲載されている。
画像はリリースより
尿の産生や血圧の調節など生命の維持に必須な腎臓は、一度機能を失うと再生しない。そのため透析患者数は増加を辿り、画期的な代替法の誕生が待たれている。腎臓は血液をろ過して尿を産生するネフロン(糸球体と尿細管)、尿を排出する尿管とそれらの組織の隙間を埋める間質という細胞から構成されているが、それらは異なる前駆細胞から作られ、腎臓の再構築には、それぞれの前駆細胞を誘導する必要がある。
その中で特に重要なネフロンを作る前駆細胞をヒトiPS細胞から誘導する方法は、西中村 教授らの研究グループによって2013年に報告されていた。しかし、再生医療への応用には腎臓を作り上げる大量の前駆細胞が必要であり、これまでに腎臓前駆細胞を人為的に培養して増やす方法の確立が試みられてきたが、マウスでも生体内において胎生11.5日目から生後数日までの約 10日間で消失してしまい、人為的に培養できるのは2~3日程度が限だったという。そこで今回は、腎臓前駆細胞が緑色に光るマウスから腎臓前駆細胞を単離し、最適な培養条件を検索することで培養法の確立を目的とした研究を実施したという。
腎臓前駆細胞を約20日間培養、100倍に増やすことに成功
その結果、LIF、WNT、FGF、BMPといった腎臓が作られる際に必要な液性因子を、あえて低い濃度で培養液に加えることによって、マウスの胎仔から単離した腎臓前駆細胞を約20日間培養し、100倍に増やすことに成功。増えた細胞は糸球体と尿細管を形成する能力を維持しており、腎臓発生に重要な遺伝子群も保たれていたという。
また、ヒトiPS細胞から作成した腎臓前駆細胞をこの方法で培養したところ、約1週間維持され、細胞数も増加。増えた細胞は、糸球体と尿細管を形成する能力を保っていたという。
今回の研究により、出生前後には消失する腎臓前駆細胞を、細胞外からの刺激によりネフロンを作る能力を保持しながら、より長期に増幅させることが可能になった。今後、さらなる培養期間の延長と細胞数の増幅が必要ではあるが、研究グループは、この培養法が再生医療に向けた研究に応用されることが期待されるとしている。
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