さまざまな生理活性物質が共存する炎症環境下で遺伝子群を同定
北海道大学は4月14日、多数のサイトカインが複雑な炎症環境を構成している状況下でインターロイキン17A(IL-17A)が角化細胞内に発現誘導する特徴的な遺伝子群を網羅的な遺伝子発現解析で同定し、それらのIL-17A誘導性遺伝子のうち、IκB-ζ(アイカッパビーゼータ)が乾癬病態を特徴づける角化細胞のIL-17A応答に必要とされることを明らかにしたと発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大大学院薬学研究院室本竜太講師、松田正教授らの研究グループによるもの。研究成果は「International Immunology」オンライン版に3月3日付けで掲載されている。
炎症性皮膚疾患の乾癬は、日本では約43万人、世界では約1億2500万人が罹患しているともいわれる。患者にとっては人目につきやすい部位に症状が現れることが多いため精神的なストレスも多く、QOLに著しい影響を与えることがある。
乾癬の病態形成のもととなるのは、皮膚の表皮を構成する角化細胞の分化成熟異常と過剰増殖であり、それらはさまざまな環境要因や免疫学的な要因によって引き起こされる。完全な治療法は確立されていないが、近年の研究でTリンパ球等の免疫細胞が産生する炎症性サイトカインであるIL-17Aが乾癬の皮膚炎症反応において重要な役割を果たしていることが分かり、治療ターゲットとして注目されているが、どのようなメカニズムでIL-17Aが病態形成に重要な役割をもつのかは分かっていなかった。
乾癬の治療薬開発や病態反映のバイオマーカー同定につながると期待
研究グループは、乾癬病変部で発現増加し病態形成への寄与が示唆されている6種類のサイトカイン(IL-17A、TNF-α、IL-17C、IL-22、IL-36γ、IFN-γ)をヒトの正常表皮角化細胞の培養中に同時に添加し、乾癬患者の皮膚のような複雑なサイトカイン環境を模倣。角化細胞の応答を、DNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析で調べた結果、6種サイトカインのミックスは角化細胞内の4,000を超える多数の遺伝子の発現変動を引き起こし、その遺伝子発現変動は乾癬患者の病変部皮膚で起こる変化とよく類似したものであることを発見。炎症環境におかれた角化細胞内での発現がIL-17Aに依存する37遺伝子を同定した。
さらに、このうちIκB-ζという遺伝子転写調節機能をもつタンパク質に着目し、IL-17A応答における役割を調べた結果、遺伝子ノックダウンの手法を用いて角化細胞におけるIκB-ζ発現を低下させると角化細胞のIL-17A応答性が低下し、βディフェンシンなど乾癬病変部で特徴的に発現増加する遺伝子の誘導が顕著に低減することが判明。これは、IκB-ζがIL-17Aによる角化細胞活性化応答の鍵を握るタンパク質の1つであることを示唆するもだという。
IκB-ζの働きを阻害する手法の開発は、将来的に乾癬の新たな治療法の提案や、IκB-ζ以外にも角化細胞活性化応答に重要な遺伝子や乾癬病態を反映するバイオマーカーとして利用できる遺伝子を含む可能性もある。今後の研究によって、乾癬病態形成機構の理解を深めるさらなる発見が期待できると研究グループは述べている。
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