少子化問題を解決する上で重要な「生殖機構の解明」
順天堂大学は4月13日、精巣内生殖細胞上の膜タンパク質「TEX101/Ly6k複合体」が、生体内で受精能を有する精子産生に極めて重要な働きを担うことを分子レベルで明らかにする研究結果を発表した。
画像はリリースより
この研究は、同大大学院医学研究科・環境医学研究所の荒木慶彦先任准教授ら研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」電子版に3月23日付けで掲載されている。
先進国諸国の少子化問題を解決する上で「生殖機構の解明」は重要な研究課題の1つとされる。哺乳動物の雄性生殖細胞には、GPIアンカー型に分類される膜タンパク質が存在しており、生殖過程に重要な役割を果たしていると知られている。その1つである「TEX101/Ly6k複合体」の重要性は示唆されていたが、精子機能への明確な関与は明らかになっていなかった。
GPIアンカー型タンパク質複合体の安定形成が、正常な精子機能に極めて重要
今回、研究グループは、生殖機構におけるTEX101/Ly6kの役割について、その共役分子であるLy6kのノックアウトマウスにおけるLy6kの発現動態を解析。これら二分子の生体内相互作用を詳細に検討した。
その結果、この膜タンパク質は、相補的分子のTEX101が存在しないと生殖細胞内に安定して存在することができず、すみやかに分解されてしまうことが明らかになった。また、これら二分子が安定して発現している培養細胞を用いて、それぞれ一方の遺伝子の働きを阻害したところ、その相補的分子の発現が劇的に減少することが判明した。これは、TEX101およびLy6kがそれぞれ単独で機能しているのでは無く、GPIアンカー型タンパク質複合体の安定形成が、卵管を通過して受精を成功させる生体内の正常な精子機能に極めて重要であることを示唆している。
この成果は、不妊の原因を単一分子と想定していた従来の研究とは異なるものであり、発生メカニズムの解明が困難であった雄性不妊症の病態生理の一端を理解する上で重要な知見といえる。今後、研究グループはこれらGPIアンカー型膜タンパク質のヒト相同体と不妊症との関連解析を進め、男性不妊症の更なる診断・治療指針への理論構築を目指すとしている。
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・順天堂大学 プレスリリース