不明だった末梢組織が治癒した後も痛覚過敏が続く理由
生理学研究所(NIPS)は4月13日、大脳皮質にある皮膚の感覚情報処理を行う脳部位において、脳内の神経膠細胞(グリア細胞)の一種「アストロサイト」が、末梢神経損傷の刺激を受けて未熟期の性質を再獲得することを、生きたマウスの脳内の神経回路を長期間観察する特殊な顕微鏡技術を用いて明らかにしたと発表した。
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この研究は、同研究所の鍋倉淳一教授、山梨大学の小泉修一教授、福井大学の深澤有吾教授、理化学研究所の御子柴克彦チームリーダーと韓国慶熙大学校の金善光博士ら共同研究グループによるもの。研究結果は、「Journal of Clinical Investigation」誌に4月11日付けで掲載されている。
事故などで外傷を負った後、怪我をした部位が治癒しても長期間にわたり痛みが持続する難治性慢性疼痛と言う症状があるが、傷ついた末梢組織が治癒した後もなぜ痛覚過敏が続くのか、この症状を引き起こす脳内メカニズムには、これまでほとんど明らかにされていなかった。
アストロサイトの未熟化によりトロンボスポンジンが放出、神経回路を再編成
研究グループは今回、慢性疼痛の病態の神経回路メカニズムを明らかにするため、マウスの脳を生きたまま観察することができる特殊な顕微鏡を用いて、末梢神経を損傷したマウスの脳内を長期間にわたり繰り返し観察した。その結果、痛みや触った感覚を感知する大脳皮質で、アストロサイトが未熟化してトロンボスポンジンという物質が放出され、神経回路の再編成が起こるため、触っただけで過剰な反応を示すようになることが明らかになったという。
これまでの研究は、主に脊髄などの痛覚を伝える経路の変化について明らかにするものだったが、今回の研究では、大脳皮質にある皮膚の感覚情報を処理する脳部位でも、感覚情報を処理する神経回路自体に再編成が起こり、末梢感覚刺激に対して過剰な反応をする仕組みが作られることが分かった。さらにその原因は、神経細胞の周りに存在するアストロサイトによって作られることが明らかとなった。
今回の発見は、難治性痛覚異常において、大脳皮質アストロサイトをターゲットとした予防や治療法など、新しい治療法や薬の開発につながると期待される。
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・生理学研究所 プレスリリース