明確な診断法、治療法がない「着床障害」
東京医科歯科大学は4月7日、女性不妊の原因となる母体側の重要分子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院疾患モデル動物解析学分野の平手良和講師、金井正美教授ら研究グループ、東京大学、フランスマルセーユ大学との共同研究によるもの。研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで掲載されている。
画像はリリースより
日本の不妊に対する生殖補助医療は、目覚ましい発展を遂げており、胚培養技術や良好胚選択技術が向上している一方、良好な胚を子宮に戻しても妊娠が成立しない、いわゆる着床障害に対しては、母体の診断法・治療法など未だ十分には開発されていない。2012年の胚移植治療実施例は約30万件だが、移植後の妊娠成功率は30%であり、着床率の改善が大きな課題となっている。
受精卵の着床は、その後につづく胎盤形成の重要な過程。しかしながら、妊娠の鍵となるステップであるこの着床については、その観察や解析方法が難しく、基礎研究においても十分に解明されていないのが現状だ。
着床は、母体の子宮内膜上皮が胚を受け入れることのできる非常に狭いタイミングでのみ可能となる。妊娠が成立するには、卵巣ホルモンの影響下でさまざまなシグナル伝達分子などが複雑に関与しているが、子宮内膜が胚を受容するメカニズムについて未だ不明な点が多い。
着床障害の新たな原因診断と治療法開発に期待
研究グループは今回、Sry-related HMG box-17(Sox 17)ヘテロ変異マウスが、着床不全により不妊になることを証明。Sox17遺伝子は卵巣、子宮 内膜上皮、血管に発現しているが、Sox 17遺伝子を片方の染色体で欠損させたヘテロ変異マウスは、排卵、受精、胚盤胞形成、卵管や子宮形態などは正常だったが、着床数の著しい減少が観察されたという。以上のことから、Sox17遺伝子が子宮への胚の着床において、これまでに全く知られていなかった役割を担っていることが明らかになった。
妊娠期間の長さはヒトで266日、マウスで20日と全く異なるものの、母体のホルモン制御や着床までの胚の成長プロセスは良く似ている。この疾患モデルの遺伝子の発現を制御する仕組みやこの遺伝子が次に働きかける遺伝子などを更に調べ、その分子機序を明らかにし、胚移植の際に着床率を安全に向上させることのできる因子を見いだすことで、将来の新しい治療法開発の可能性が広がると期待されている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース