■エフェドリン除去しても薬効
エフェドリンアルカロイド(EA)を除去した麻黄エキスを安全性の高い天然物エキス製剤として医薬品化するため、国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)と北里大学を中心とした研究グループが医師主導臨床試験をスタートさせた。麻黄の薬効はEAに由来すると考えられてきたが、EAを除去してもいくつかの薬効は維持されることが判明。心悸亢進、高血圧などの副作用を持つEAを除去した製剤を確立できれば安全性が向上し、今まで以上に幅広い患者に投与できる可能性がある。今後、膝や肩の関節痛に悩む慢性疼痛患者を対象とした企業治験へと発展させる計画だ。
研究グループは並行して、その過程で得た経験をもとに天然物医薬品に特化した承認申請ガイドラインの策定にも取り組む。日本では、これまで20年以上天然物の新薬は登場していない。現在の承認制度は、多成分系である天然物には十分に対応しておらず、研究や開発に取り組みづらいためだ。品質規格などを盛り込んだ承認申請ガイドラインを整備し、治験を通じて日本における新たな天然物医薬品の創製を後押しする狙いもある。
研究グループのうち国衛研を中心とするチームは、EA除去麻黄エキスの効率的な製造法や品質評価方法の確立などを担当。北里大を中心とするチームは、薬理作用の解析と医師主導臨床試験の実施を担当している。
現在、北里大東洋医学総合研究所で医師主導臨床試験がスタートしたところで、健康成人7人を対象にEA除去麻黄エキスを投与し、その安全性を評価する第1段階の試験を終えた段階だ。この試験で白血球数上昇が認められたことから、第2段階として今夏にもGCP準拠の安全性評価試験を実施する。健康成人12人を2群に分け、麻黄エキスとEA除去麻黄エキスをそれぞれ1週間投与し、休薬を経て、服用薬を入れ替えて1週間投与する。
この試験で安全性を確認できれば、第3段階として医師主導臨床試験を来年度初めまでにスタートさせる見込み。膝関節、肩関節に慢性疼痛症状のある患者20人を対象に、EA除去麻黄エキスを2~4週間投与し、有効性・安全性を評価する。有効性のメドが立てば、第4段階として企業による本格的な第III相試験に移行し、関節痛、神経痛、筋肉痛を有する患者300人を対象にした多施設共同二重盲検プラセボ対照比較試験を実施する計画だ。
国衛研と北里大は既に関連特許を取得済みで、医薬品化に向けて常磐植物化学研究所を含めた3者での特許を近く国内で出願する予定となっている。
麻黄は抗炎症作用、鎮咳作用など幅広い作用を持ち、麻黄を含む漢方薬は感冒や喘息などの治療に使われている。有効成分として、長井長義がエフェドリンを単離したことはよく知られる。麻黄の薬効はEAに由来すると考えられてきたが、近年になってEAを除去してもいくつかの薬効は維持できることが分かってきた。
またEAには、心悸亢進、高血圧、不眠症、排尿障害などの副作用がある。循環器疾患を持つ患者への投与は制限されており、狭心症、心筋梗塞、高血圧患者には麻黄含有漢方薬は投与禁忌である。EAを除去した麻黄エキスは、これら患者の疼痛緩和にも幅広く活用できると期待されている。
さらに、麻黄には癌転移抑制作用があることも明らかになっている。EA以外の成分が関係していると見られ、EA除去麻黄エキスは術後の癌転移抑制にも役立つと見込まれている。