Arf6経路が、がんの間充織的形質や幹細胞的性質と関連するのかを解析
北海道大学は4月5日、乳がんの浸潤転移・薬剤耐性分子機構とその診断・阻害法を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科分子生物学分野の佐邊壽孝教授、橋本あり助教、大阪大学微生物学研究所の岡田教授、小根山准教授、東北大学の福田教授との共同研究によるもの。同結果は米国の「Journal of Cell Biology」に4月4日付けでオンライン公開されている。
乳がんは5年生存率が90%程度あるものの、若年層からの罹患率が非常に高く、初期治療が成功した後にも頻繁に再発する。また、悪性乳がんは様々な治療に対して抵抗性を示す。
研究グループはこれまで乳がんや腎がんを主な研究対象とし、Arf6を中心とする浸潤転移を駆動する分子装置の存在を明らかにしてきた。さまざまな増殖因子受容体の異常な高発現が乳がんの悪性度とよく相関するが、Arf6は増殖因子受容体によって活性化されることも明らかにしている。この数年間において、Arf6経路の存在はがんの間充織的形質や幹細胞的性質と関連するのか、また、細胞側の代謝状態などもArf6経路活性化に関与するのではないかと考え、研究を進めていたという。
メバロン酸経路阻害薬スタチンが、Arf6 活性を阻害、乳がん治療に有効
今回、同研究グループは、悪性度の進行した乳がんにはEPB41L5という、本来は間充織細胞に見られる蛋白質が強く発現していること、EPB41L5はAMAP1の結合相手であり浸潤転移に必須であることを見出し、このArf6経路は悪性度の進展したがんに現れる、間充織型シグナル経路であることを明らかにした。
また、乳がんの多くに増殖因子受容体の異常な発現が見られるが、Arf6は増殖因子受容体によって活性化される。今回はさらに、増殖因子受容体からのArf6活性化にメバロン酸経路活性が必須であることを分子的詳細と共に解明。これにより、がん抑制遺伝子TP53の変異がどのようにして乳がん悪性度進展に関わるのかも明らかになり、高発現したArf6-AMAP1-EPB41L5経路が、浸潤転移だけではなく、薬剤耐性の根本であることも明らかになったという。
高脂血症治療に使われているスタチンはメバロン酸合成経路の阻害剤だが、スタチンによって乳がんの浸潤転移並びに薬剤耐性を著しく阻害することができた。ただし、これはArf6、AMAP1、EPB41L5を強く発現している乳がんに限ったことだったという。一方、国際的乳がんデータベースの解析によって、Arf6-AMAP1-EPB41L5経路の高発現は予後不良と強く相関することも判明した。
なお、市販のスタチンは肝臓にたまりやすいように設計されているが、乳がんの転移は肺などにも起こる。この点をどう解消するのか、さらなる基礎研究を進める必要があると同研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース