不顕性感染も多数みられるジカウイルス感染症
北海道大学は4月6日、各国のジカ熱の輸入リスクと国内伝播のリスクを推定する新しい統計モデルを開発し、その推定結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科社会医学講座の西浦博教授らによるもの。研究成果は、英科学誌「PeerJ」に4月5日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ジカウイルス感染症は、デングウイルス感染症やチクングニアウイルス感染症などと同様にシマカの媒介によってヒトからヒトへ伝播する。臨床症状・徴候はデング熱に類似しており、軽微なことが多く、不顕性感染も多数みられることが知られている。しかし、妊娠初期の女性がジカウイルスに感染すると、胎児の一部に小頭症が発生するリスクがあることが明らかになっている。また、2015年4月以降、ブラジルを起点に南米地域での流行が始まり、アメリカ大陸以外の世界各地において感染が確認されている。
ジカ熱の日本国内伝播を認めるリスクは16.6%と推定
今回の研究は、ジカウイルスの国固有の輸入リスクと国内伝播リスクを推定することを目的としている。これまでにも英米を中心とした研究グループにより、媒介蚊の生態を気象データなどからGIS上でジカウイルス伝播のリスクを予測する研究が実施されていたが、実際の輸入リスクや国内伝播リスクはヒトの移動やウイルスの定着のしやすさに依存するため、輸入・国内伝播やヒトの移動の実測値を加味した国単位でのリスク予測も求められている。
また、これまでの研究から、航空機を利用したヒト移動ネットワークデータを用いた数理モデルによる予測により、各国の伝染病の輸入リスクを推定できることが判明している。これを利用し、航空ネットワークデータを用いてブラジルから世界各国までの実効距離をそれぞれ計算。国固有のジカウイルス輸入リスクを生存解析モデルによって推定。生存解析モデルによる推定には、ジカ熱を既に輸入した国の輸入日を利用。また、暫定的な国内伝播リスクの推定のためには、同じ属の蚊を共有して伝播するデングウイルスとチクングニアウイルスの疫学データを用いて、リスク推定モデルを構築したという。
生存解析モデルを過去のジカウイルス輸入データであるブラジルでの流行から輸入国までに要する経過時刻に適合することで、国固有の輸入リスクを十分に予測できたという。また、デングウイルスとチクングニアウイルスの疫学データを用いた国内伝播リスクの推定に成功。ブラジルでの流行以前にジカウイルスが確認されていないと仮定すると、2016年中に日本国内でジカ熱の国内伝播を認めるリスクは、16.6%と推定した。
今回の推定モデルの結果は、公衆衛生従事者のリスクアセスメントに重要な役割を果たすことから、国内伝播リスクの高い国では、媒介蚊対策を考慮する必要がある。国内伝播リスクはメキシコで 48.8%、台湾で 36.7%など、デング熱やチクングニア熱の流行を認めた熱帯・亜熱帯地域でより高く、一方、英国で6.7%、オランダで5.3%など、日本と同じ温帯地域でもより低い国もあったという。国内伝播のリスクが低い国は過度の社会的不安を煽る必要はなく、渡航に伴う妊婦の感染を避けることに注力すると良いと研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース