クリスパー・キャス9法によるゲノム編集技術をニワトリに初めて適用
産業技術総合研究所は4月7日、卵白に含まれる強力なアレルゲンであるオボムコイドの遺伝子を欠失したニワトリを開発したと発表した。これは、バイオメディカル研究部門・細胞分子機能研究グループ大石勲総括主幹、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産研究部門田上貴寛上級研究員、国立大学法人信州大学農学部鏡味裕教授ら共同研究グループが行われたもの。英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に4月6日付けで掲載されている。
画像はリリースより
次世代の品種改良法として、ゲノム編集技術が注目されているが、ゲノム編集は、従来の技術よりも、正確に、効率よく遺伝子を操作でき、農水産物の新たな品種改良法として、国際的な技術開発競争が展開されている。しかし、ニワトリをはじめとする家禽は、受精直後の卵細胞の操作が困難で、ゲノム編集技術はほとんど適用されておらず、品種改良では重要な父方母方由来の両遺伝子に変異を導入したゲノム編集ニワトリも、これまでなかった。
低アレルゲン性の鶏卵生産など新たな畜産技術開発に期待
研究グループは、他の生物種のゲノム編集技術では主流となっているクリスパー・キャス9法をニワトリに適用。始原生殖細胞に90%以上の高い確率で変異を導入する方法を考案、この細胞を元に、卵白アレルゲンであるオボムコイドの遺伝子を欠失したニワトリを開発した。
クリスパー・キャス9法は、ゲノム編集技術の手法の1つで、細菌など原核生物の持つ免疫系を活用して特定の遺伝子配列を切断し、これに伴う遺伝子の変異や改変を可能にする。使用に際して設計が容易なこと、効率が高いことなどからゲノム編集技術の中で最も多用されている。
オボムコイドは卵白中で最もアレルゲン性が強く、加熱処理や酵素処理にも強いため、除去技術の開発が試みられてきた。今回ゲノム編集技術によりオボムコイドの完全除去にめどが立ち、低アレルゲン性卵の生産に道筋がついたことになる。この卵は将来副作用の少ないワクチン生産などに応用できると考えられる。また、今後はオボムコイドを原因とするアレルギー疾患をもつ人が摂取できる食材への応用にも期待が持たれるが、それには、安全性確認やゲノム編集による産物の扱い方についての社会的取り決めが不可欠となる。
今後、研究グループは、第2世代のオボムコイド遺伝子欠失ニワトリを飼養し、オボムコイドタンパク質を含まない鶏卵生産が可能かどうか、またアレルゲン性をはじめとした卵の性状について解析を行う予定としている。
▼関連リンク
・産業技術総合研究所 プレスリリース