これまでとは異なった機序でがん細胞を死滅させるmAb4713
順天堂大学は4月6日、悪性リンパ腫細胞や成人T細胞白血病(ATL)細胞を、これまで知られている仕組みとは異なった機序で死滅させる「4713モノクローナル抗体」(mAb4713)を樹立したと発表した。この研究は、同大医学部病理・腫瘍学講座の松岡周二助教と理化学研究所統合生命医科学研究センターの石井保之氏(ワクチンデザイン研究チームリーダー)ら研究グループによるもの。同研究成果は 米科学雑誌「PLOS ONE」に3月31日付けで掲載されている。
画像はリリースより
悪性リンパ腫は、血液腫瘍のなかで最も頻度の高い疾患で、日本では年間1万人以上が発症するといわれている。 非ホジキンリンパ腫の一種であるB細胞リンパ腫や成人T細胞白血病において有意な治療効果を示す抗体医薬が開発されているが、一部の効果がみられない患者や、一度寛解しても標的分子を欠失した耐性株が出現し、再発する患者も多い。そのため、多くの種類の悪性リンパ腫に対して傷害活性を有し、悪性リンパ腫や白血病細胞に選択的に有効で、耐性株の出現しにくい分子標的治療薬の開発が望まれている。
腫瘍細胞に直接巨大な穴を開けて破壊
今回、研究グループは、多くの悪性リンパ腫を傷害する抗体を樹立することを目的に実験を開始。まず、通常行われているように標的分子のペプチドを免疫したり、1種の悪性リンパ腫で免疫するのではなく、複数の悪性リンパ腫で免疫したマウスの抗体産生細胞を用いて融合細胞を作製。悪性リンパ腫細胞への細胞傷害活性を指標にスクリーニングした。その結果、複数の分子(HLA クラスII分子群のDP、DQ、DR)に結合し、多くの悪性リンパ腫に傷害活性を有する抗体を得たという。
この抗体は、ごく短時間で巨大な穴を血液がん細胞に直接あけるという特徴的な作用を持ち、補体非依存性に傷害活性を示したという。また、mAb4713を注射することにより、悪性リンパ腫細胞を移植したマウスの生存を有意に延長。さらに、正常な細胞に対しては傷害活性が無いことも確認されたため、この抗体は血液のがん細胞だけを攻撃することが判明した。
同抗体は、HLAクラスII分子群のDP、 DQ、DR のいずれにも反応することから、がん細胞に生じた1つの遺伝子変異では、がん細胞はこの抗体の攻撃から回避することができない。つまり同抗体存在下では、従来の分子標的薬に比べ、耐性がん細胞の出現を抑えることができるという。また、この抗体は補体やADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に頼らず、腫瘍細胞に直接巨大な穴を開けて破壊する(アナポコーシス)新たな作用機序をもつ。そのため再発例も含めた悪性リンパ腫や白血病の患者に対して効果的な治療効果を発揮できると考えられることから、これまでの抗がん剤や分子標的薬で治療できなかった患者や再発した患者に対し、効果的な治療薬の開発が見込まれるとしている。
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