毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ皮膚器官系を再生
理化学研究所は4月2日、マウスiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、毛包や皮脂腺などの皮膚付属器を持つ「皮膚器官系」を再生する技術を開発したと発表した。この研究は、同研究所多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー、株式会社オーガンテクノロジーズの杉村泰宏社長、北里大学医学部の武田啓主任教授、佐藤明男特任教授、東北大学大学院歯学研究科の江草宏教授ら研究グループによるもの。この成果は米オンライン科学雑誌「Science Advances」に4月2日付けで掲載されている。
画像はリリースより
皮膚は生体を防御する他、汗の排泄などの機能があり、生体の恒常性維持に重要な役割を担っている。また、複雑な構造を持つためにさまざまな疾患に関係しているが、その複雑さゆえに皮膚の完全な再生はいまだ実現していなかった。そこで研究グループは、皮膚疾患に対する新たな再生治療法を確立するため、iPS細胞から皮膚器官系を形成する技術の開発を目指したという。
難治性皮膚疾患や脱毛疾患への応用に期待も
今回の研究では、マウスiPS細胞から胚葉体(EB)と呼ばれる凝集塊を形成。この凝集塊を複数個合わせてコラーゲンゲルに埋め込み、マウス生体へ移植してさまざまの上皮組織を形成する「Clustering-Dependent embryoid Body」(CDB法)を開発。この移植物内部には、上皮層や真皮層、皮下脂肪層、毛包や皮脂腺を持つ天然皮膚と同様の皮膚器官系が再生されていることが明らかになったという。
さらに、このiPS細胞由来皮膚器官系から毛包を10~20本含む「再生皮膚器官系ユニット」を分離し、別のマウス皮下へ移植したところ、移植組織はがん化することなく生着し、神経や立毛筋などの周囲組織と接続して、機能的な毛包を再生することも示された。これらの成果は、世界に先駆けて、上皮・間葉相互作用を介して誘導される複数の器官を持つ複雑な皮膚器官系が再生可能であることを示したものだという。
開発した手法をヒトに応用するには、生体内移植を経ずに生体外で皮膚器官系を再生する手法へと発展させることが必要だが、今回の研究成果は将来、皮膚の外傷や熱傷の完全な再生に加え、先天性乏毛症や深刻な脱毛症、皮膚付属器に関する疾患の治癒につながると期待できる、と研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース